緑の巨人と交渉中
オオトカゲの肉を金色にしながら焚火をつついて炙っていると、先に目を覚ましたのはタカコではなく、緑の巨人だった。
とりあえず鎖で縛ってみたが、ガチャンと音を立ててから静かになったところを見ると鎖を自力では切れないようである。
「……暴れないのか?」
「……! 暴れない。降参する……」
まず普通のしゃべったことに驚いた。
よく見れば小刻みに震えていて、普通にビビっているようだった。
大暴れしてほしかったわけでもないがやはり意外だ。
見た目によらず、ずっと繊細な種族なのかもしれないと思い直し、俺はどこか拍子抜けしながら頷いた。
「助かる。それで……俺達に用があるってわけではないんだよな?」
「用はない……匂いにつられてきた」
想定内の理由を口にした巨人の視線の先には、俺が調理中の黄金色の肉があった。
「そんな肉は見たことない……食べたい」
「そ、そんなに?」
縛られた状態なのにもかかわらず、この緑の巨人はお肉に夢中らしい。
そもそも気絶なんてそう狙ってできるものでは無い、体格のわりに臆病な種族のようではある。
俺はなんだか警戒するのも馬鹿馬鹿しく思えて来てため息を吐いた。
「それでも食欲を訴えるのもたいがいだけどな……まぁ肉はふるまってもいいよ。俺達を食べないっていうのなら」
「食べない、オデのアイテム袋に肉を入れてくれたらすぐ帰る」
ちょっと食い気味に断言された。
幸い俺達は彼にとって魅力的な食料というわけでもないようで何よりだが、アイテム袋というのは少し気になった。
「アイテム袋?」
「腰のところにある。見てくれ」
お言葉に甘えて緑の巨人の腰のあたりを確認すると、そこには小さな布の袋がぶら下がっていた。
「これに……肉を入れるのか?
「そうだ。無理やり突っ込めば入る」
「……そうなんだ」
たとえ入ったとしても中は大変なことになると思うのだが。
本人の望みであるなら仕方がない。俺は腰の袋を預かり言われた通りに焼いた肉を気休め程度に大きな葉っぱに包んで、無理やり袋に突っ込もうとしたが、そこで不思議なことが起こった。
袋の入り口に肉を持っていくと、一瞬できててしまったのだ。
「あれ!? 肉が消えた」
落としたわけでもなく、さっきのようにうっかり食べてしまったわけでもない。
一体何が起こったのかわからなかった俺に緑の巨人は丁寧に説明してくれた。
「アイテム袋の中に吸い込まれたんだ。百個まで何でも入れることができる。うちの集落の特産品だ」
ちょっと自慢そうに語る緑の巨人の言葉に俺は内心戦慄していた。
アイテム袋だと? そんなものが存在するのか?
こいつは更なるパワーアップの匂いがする。さてここは悩みどころである。
数ある選択肢の中から俺が選んだのは、比較的ギャンブルじみたものだった。
「すまない巨人さん……俺の頼みを聞いてくれないか?」
「……なんだ?」
「俺達をお前の住んでいるところに連れて行ってくれよ。そしたらこの肉を振舞おう」
幸い黄金肉オオトカゲはかなり大型のモンスターだ。
巨人がどれだけ食べるのかはわからないが、十分腹いっぱいふるまえるだろうし、彼に頼めば残った肉を捨てずに済む。
俺がどうだろうと提案すると、巨人は目を輝かせて何度も頷いて承諾した。
「わかった! お前達を案内する! 約束する!」
「交渉成立だな。ならとりあえず鎖を解こう」
俺はゆっくりと近づいて、鎖をとっぱらうと、巨人は特に抵抗する素振りもなく身を起こす。
この判断がどんな結果に結びつくのか、楽しみだ。
俺はこの瞬間、緑の巨人の客になった。