生存戦略
「え? 気絶! おいおい……トシの方が迫力あっただろう?」
俺は倒れたタカコを見て、慌てる。
巨大トカゲは大丈夫で、なんでこっちはダメなんだと心底思うが、味方が行動不能になった今、何らかの対策が必要だった。
「さて……どうするかね」
俺はそう口にして、戦闘に意識を切りかえた。
相手の戦闘能力は未知数。
タカコが狙われる前に、速やかに決着をつけるのが最良だろう。
先手必勝、出会いがしらに一撃入れるか?
そんな考えが頭をよぎるが、相手はこちらを見たまま固まっていた。
敵は大きな体と言ってもトシほど常識はずれていうわけでもなく、人間基準で二倍ほど大きい程度だ。
緑色の肌はいまいちなじみがないが分厚そうで、よく見れば布の簡単な服まで着ているのだから、ただの野生動物とも言い切れない。
敵意があるのかないのか。こういう時、ずば抜けた観察力やら野生の勘みたいなものが働けばいいのだが、生憎と俺はそのあたりどちらも鈍感だった。
「やられる前にやるしかないか……」
そんな結論に達し、パワードスーツを転送しようと飛び出すと、巨人に異変が起きた。
目玉がクルンと裏返り、体が傾いたのだ。
「は?」
ズズンと音を立てて倒れ、それからピクリとも動かなくなった巨人に俺は意味が分からず戸惑うばかりだった。
何が起こったのか全く分からない。
助けを求めるのはもちろん俺達のご意見番だった。
「テラさん。マジで意味が分からん。い、いったい何が起こったんだ?」
テラさんはしばし状況を整理し、白目をむく巨人を診断し結論を出した。
『気絶しているようです』
「気絶? いきなり倒れたけど?」
『気絶です。タカコさんと同じ症状だと考えられます』
「……」
俺も念のため近寄って確認すると、呼吸はしているし外傷があるわけでもない。
謎の奇病ってこともなくはないが、まぁ気絶だろう。
「はぁ……」
俺はすでに穏やかに寝息を立てているタカコをチラリと見た。
うーん確かに。いきなり目の前で気絶されると、戦意は飛んでいくな。
そう考えるとタカコのアレも案外生存戦略としては悪くないのかも? なんて思ったが、巨人と女の子が気絶しているという状況は何とも途方に暮れてしまった。
「なぁ。どうすればいいと思う? テラさん?」
『タカコさんだけ回収してすぐにこの場を離脱する、もしくは謎の生物を無力化し、現状を維持する』
「まぁそんな感じになるか……気になるし、少し待つか」
周囲には他に気配はない。
俺はやれやれとひとまず意識のない連中を地面の上から動かすことにした。