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本気で戦いたい相手

「何のこだわりか知らんが……それじゃあ俺のが納得できんのさ。死闘で全力も引き出せんなんざ、茶番に落ちるってもんだ。知っているか? 俺達の真価は、血の匂いで引き出される。ひどい興奮状態になるが、戦闘能力は飛躍的に向上する奥の手だ」


 ヤルダはのそりと起き上がり全身に力を籠める。


 すると血管が全身に浮きだし、彼の周囲を赤い霧が漂い始めた。


「!」


 俺はヤルダが何をしようとしているのか察して、顔色を変えた。


「トシ! 逃げろ! これは……」


「うるさいぞ! 口を出すな!」


 ヤルダは俺に向かって腕を振り衝撃波を飛ばした。


 その場を飛び退き、かわすことには成功するが、距離が開いた。


 ヤルダの赤い霧は、もうトシの周囲にも渦巻いていた。


「……この血の池って技は、俺達用の技さ。同族の血の匂いはテキメンに効くぜ?」


「……!」


 トシの体には、すでに異変が起きていた。


 俺は知っていた。血の闘争心こそ変身のトリガーだということを。


 トシの目は血走り。体がどんどん大きくなっていく。


 俺にわかっていたことだからトシにだってわからないはずはなかっただろうに、トシはこの変身を自分から受け入れたようだった。


「……まぁなんにも思わない方がおかしいか」


「な、なんか。トシ君大きくなってません? ていうかめちゃくちゃデカいですよね? あのでっかい怪獣より、もっとでっかくなってる気がするんですけど……!」


「わかってるよ……こうなると力づくで止めるのは、ちと厳しい」


「え? あれって……貴方より強いんですか?」


「……うん。強いね」


 タカコがあわわと慌てながら怯えていたが、それは彼女だけの反応ではなかった。


 城の周囲にいた騎士達も、トシを見上げて青い顔をしていて、その場から動くこともできないようだった。


「グオオオオ!」


 トシは両腕を振り上げて、吼えると空気が震えた。


 ただ一人、向かい合っている怪物だけが、どこか嬉しそうに自分の倍以上あるトシを見て歓声を上げた。


「そうだ! それでいい……! 俺は本気のお前と戦いたかったんだ!」


 どう考えても勝てそうにない相手と、なんでそうまで戦おうとするのか?


 不思議だが、強い相手と戦いたいという気持ちは、俺にもわからない訳ではなかった。


 及ばないからといって引き下がれない。きっと直接拳を合わせているトシもまたそうなのかもしれない。


 あの脇で見ていても、必死さを感じさせるヤルダに応えるために、トシは彼の技を受けている。


 さっきまでモンスターと子供が戦っている様な見た目のアンバランスさは、もう完全に逆転していた。


 トシの大きさは60メートルを超え、半分ほどの背丈のヤルダは再び挑みかかる気満々だった。


 だが俺は理解できるからと言って、このままでいいとも思えない。


 あの二人が本気で戦えば、この辺り一帯が更地になったとしてもおかしくはないと、そう思ったからだ。


「どうしよう……ヒーロー的に止めた方がいいんだろうか?」


「出来るならぜひそうして欲しいんですけど!」


「……だよなぁ」


 タカコも同意見のようだが、正直結局大混戦しか道がないのは考えものだ。


 そんな俺の悩みを解決したのは予想外の人物だった。


 いつの間にか姿を消していた女は、見慣れない短剣をもってこの場に現れる。


 やれやれとため息を吐き、彼女はヤルダに話しかけていた。


「まったく……あの子供が自分より格上だって、わかっていたわね? なぜ言わないの?」


 聞く耳持たないかと思いきや、ヤルダは律義に女に向き直り苦笑した。


「言ったら戦えないだろう?」


「……当り前でしょう。こんなところで切り札を一つ晒すことになるなんて……」


 そう言った女は握っていた短剣をヤルダに掲げて見せた。


 そしてそれを地面に落とすと、切っ先が地面に触れた瞬間、俺達のいた場所の風景は一変した。


 俺達はタカコのペンダントが輝き、ギンと何かシールドのようなもので弾かれ、その場にとどまれたが、騎士達の姿はない。


 残ったのは俺達と、トシ、ヤルダ。この現象を引き起こした女だけだった。


「なんだこれ!」


 俺は驚きの声を上げた。


 しかしタカコには何が起こったのかわかったようだった。


「すごい! あの短剣、空間を歪曲させて拡大しましたよ!」


「……どういうことそれ?」


「えーっと……簡単に言えば即席のバトルフィールドって所です!」


「何それ便利ぃー」


 タカコの言うことはよくわからないが、バトルフィールドは周囲に被害を出さないという意味では理想的だ。


 短剣を中心に広がる平たい大地は不思議な場所である。


 城も岩も消えうせ、だだっ広く円形に広がっているらしい。


 俺のように対個人戦しかできないと意味は薄いが、例えば強力な魔法使いにはこれ以上ない便利な代物になるだろう。


 女は満足げに広がったバトルフィールドを眺めて、ヤルダに命令する。


「この私、タイタニア・グランピークの名において命じます。この短剣は強制的に戦う場所を作り出すアイテムです。見ての通り加減は必要ありません。制限時間は一時間よ。それまでに仕留めなさい」


「……やっぱりあんたは最高の雇い主だな」


 きょとんとしていたヤルダはずらりと並ぶ牙をニッとむき出しにして笑い、一度頭を下げる。


 そしてヤルダは全身に炎を纏い、トシに向かって突撃した。


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― 新着の感想 ―
[一言] ・・・某勇者王のディバイディングドライバーかな?www
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