ポジティブに迷走
俺、大門大吉は、最近のヒーローとは程遠い行動に、我ながらどうしてこうなったと思わない事はない。
王都でやらかした暴走など、ヒーローどころかラスボスのそれだったのだから、言い訳のしようもなかった。
そして現在、俺は混乱に乗じて、大貴族の城に忍び込んでいるのだからかなり犯罪臭い。
ちなみにうちの店員は真っ正面から城に飛び込んで、現在かく乱の真っ最中である。
城の人間はトシの事しか眼中にない。
トシの戦闘能力を知っているからの反応だろうが、今回はそれを存分に利用させてもらうつもりだった。
「トシなら大丈夫だとは思うけど、今回は急いだほうがいい。テラさん……タカコの位置はわかるか?」
そう尋ねるとテラさんの声が耳元で響いた。
『現在地下牢に幽閉中です』
「地下牢か……それは、まんまと捕まってるなぁ」
あのタカコというお嬢さんはいろんな世界を回って来たというから、さぞやいろんな秘密を隠しもっていると疑っているのだが、こうして普通に捕まったりするので本当に掴めない。
俺が判断に困ると肩をすくめているとテラさんが質問を口にした。
『助けに行く必要はありますか?』
「正直わからんけど……今回はね、巻き込むのは酷だ」
予定外のイレギュラーだが、これで彼女の旅が終わってしまうのはあまりにも忍びない。
俺は屋根を飛んで城の内部に忍びこみながら、気分を一気に切り替えた。
「最短のルートを出してくれ。ナビ頼む! 出来るよな?」
『了解。造作もありません』
「うーん。うちのテラさん超便利!」
『当然です』
俺はすぐさまヘルメットに内蔵されたディスプレイに映し出された矢印に従い、城の中を全力で走り抜ける。
その気になれば城の中だろうと、牢屋までなど数分とかかるまい。
行く道に立ちふさがる騎士は俺を見るなり目を白黒させていたので、隙はバッチリつかせてもらった。
「……んなぁ!」
「食らえ! 必殺!」
声を出す暇すら与えず、全力疾走から拳を突き出しながらすれ違う。
すれ違いざまに放たれた俺の弱電撃は、騎士達の意識を奪い去った。
俺は背後でバタバタ倒れる音を聞きながらニヤリと笑い、走り出したがテラさんはツッコミを入れた。
『拳の意味とは?』
「これぞ必殺雷神拳だ……こういうのもいいだろう?」
『ひょっとして……楽しんでいますか?』
「まぁちょっとだけ? 仲間を助け出すシチュエーションは好き」
『救いがたい話です』
そう言いなさんなテラさんや、前向きな考え方も少しは必要なんだ。
こう……拳一発で黙らせているようにも見えるハッタリは必殺技には重要だろう。
どうでもいいちょい技を開発しつつ目的地に到達した俺は牢屋に殴り込んだわけだが……。
「うわぁ! なんなんですか一体!」
「何者だ!」
牢屋のある部屋に踏み入ると、思ったよりも元気そうなタカコの声と、知らない女の声が二人して俺を出迎えたのだった。