興奮するお嬢様
一方その頃、ジャンは白い戦士に続き、オークの城に攻め入っていた。
騎士であり、メルトリンデ家に仕える執事のジャンは代々家に仕える家系であった。
当主にふさわしい資質を持つ者を公私ともに支えなければならないはずが、守るべき主をさらわれるという体たらくは許されるものではない。
ジャン自身、シャリオお嬢様の力があまりに強大だったため、油断していた自分を恥じた。
だがオーク達を突破して、ようやくたどりついた場所で目的の人物を発見する。
「お嬢様! 無事ですか!」
見回せばその部屋は戦闘の後が見て取れ、廃墟のような有様だった。
そんな中シャリオお嬢様は瓦礫の転がる床に座りこみ、呆けたように部屋の亀裂から空を眺めていた。
一瞬ジャンは血の気が引いた。
いったい何があったのか?
シャリオお嬢様は彼女らしくもなく、力の抜け切った表情だが、服の乱れもなく怪我がないことにジャンは胸をなでおろす。
「お嬢――」
声をかけようと歩み寄ろうとしたジャンだったが、シャリオはそんな彼にまるで気が付いていないようにスクリと立ち上がり、彼女の巻き上げられた髪が、ザワリと蠢くのが見えた。
「うっ!」
ジャンは固まった。
あれは、お嬢様が感情的になった時の、最も危険な兆候だ。
自分の後から今にも部下達が続いてやってくるだろう。
焦りは募る。
シャリオは頬を紅潮させ、激しく、かつてない勢いで燃え始めた。
「……ヒーロー」
シャリオがぼそりと呟くと、ジャンの全身から冷や汗が吹き出し、後からやってくる部下に向けて叫んでいた。
「―――退避!」
炎は爆発する。
シャリオの軍服を炎が包み、いつしか炎の形態はドレスのようになって燃え広がった。
彼女を中心にして炎は部屋を絨毯のように舐め、そんな中をダンスでも踊るようにくるくると踊りまわるシャリオはぞっとするほどに美しく、これ以上ないほど危険であった。
「フッ……フフフ……ヒーロー。わたくしのヒーロー!!!!」
声は轟き、炎は踊る。
その日、オークの城は一晩中赤く燃え盛り、朝まで炎が消えることはなかった。




