別の世界の行きついた果て
ヤルダのいた世界のとある島国では寝ても覚めても戦いが日常だった。
島の東と西に分かれて、常に戦争だ。
アスラ族は中でも有力な集団で個の強さに異常なまでのこだわりを持っていたが、この世界に生きる誰もがそうであったとも言えた。
この世界での戦いは自らの肉体を使うことをが好まれ、ありとあらゆる方法で頑強な肉体を作り上げ、歴史上で殺しあい続けていた。
限界を超えた肉体鍛錬など当り前。肉体の改造は薬物を使ったものから物理的なものまでありとあらゆる試みが幾度も繰り返されている。
その果てに生き物は進化し、滅び、強い種族が生き残る。
命をすり減らす様な生存競争を、永遠に繰り返し続け、それこそが生物の正しい在り方だと本気で信じていた。
だから気が付かなかった。
自分たちの長い歴史がいかに呪われているものであるかを。
それはまるで究極の毒を作っているようなものだった。
自分達を滅ぼせる毒を自分たちで育て続けている。
そして最後にたどり着いた時、自分達が滅びたとしても、満足して死にゆく。
馬鹿げた話だが、少なくともアスラ族はそういう種族だった。
その子供はある日突然生まれた。
ごく普通の。ただの子供としか思われてなかった化け物は当然の必然として、ある日暴走した。
戦場と化したその場所で、化け物は唯一の支配者だった。
全ての者を悉く蹂躙する力の化身に、赤い戦鎧で武装した角の生えた者達が襲い掛かってゆく。
そこに男も女もなく、ただ引き寄せられるように化け物に挑む彼らには共通点があった。
皆一様に笑っていた。
誰も彼もが壮絶に笑い、そして当然の結果として敗北する。
「……!」
ヤルダもまた、遺伝子の底の底に刻まれた抗うことができない衝動に突き動かされていた。
視界が血のように赤く染まり、闘争本能は暴走する。
瓦礫と炎の中でヤルダは明るく輝く角をいくつも見た。
そしてそれを見下ろす化け物の目。
それがヤルダの最後の記憶である。
「おいどうした?」
ヤルダは、ハンソンの声を聴きハッと我に返った。
「いや……ちょっといい夢を見ていただけだ」
「気を引き締めろ。アレと戦えるのはお前だけだ」
「ああ。賞品付きで丁寧に招いてくれたからな。大切に扱ってくれよ?」
「……わかっている」
ヤルダは気分が昂っていた。
頭に焼き付いた記憶は今まで何度も繰り返してみてきたが、今日ほど鮮やかだったことはない。
ヤルダは高ぶりを抑えるために目を閉じる。
その時はもう目の前に迫っていると、ヤルダは感じていた。