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一方的な対面

「何かやたら興奮し始めたけど……あいつ、知り合いか? トシ?」


「……」


 トシはじっと男の顔を見ていたが、結局首を横に振る。


 直接の面識はないようだが、男の顔に迷いなどない。


 何より男の額の角が、彼の言葉をただの戯言ではないと証明しているようなものだった。


 俺はトシの表情を見る。


 だがトシの方は懐かしいものを見ているという感じでもなく、どちらかと言えば睨んでいる節さえあって状況を掴みきれなかった。


 すると男の方が口を開いた。


「ああ、お前は知らんよな……ならそれはそれで構わんさ。やることは変わらんからな!」


 瞬間、ザワリと男の赤毛が逆立って、動き出す。


 俺の目には初動が速過ぎて、霞んだようにしか見えなかった。


「……うお!」


 その段階で俺は察した。


 ああ、こいつは常人の対応できるレベルより上の奴だと。


 ちゃちな肉体強化くらいでは対応できない、本物の超人の動きは一味違う。


 踏み込みで地面が砕け、高速すぎて空気が破裂し、気が付けばトシに拳が迫っていた。


「……!」


 ドンとおおよそ人の拳とは思えない重い音が響く。


 トシは拳を受け止めて、そのまま掴むと、襲ってきた男を片手で投げ飛ばした。


 男はくるくると空中で回転し勢いを殺して着地して、本当に楽しそうに笑った。


「その姿でも戦えるのかよ!」


 男は叫びそして、仕切り直すと空手のような構えを取って、名乗りを上げた。


「我が名はアスラ族! 滅拳のヤルダ! 我が名を聞いた以上は、死は免れぬものと知れ!」


「……」


 すると、トシがこちらを見ている。


 俺にはわかる。これはわかってない時の顔だった。


「……あの人はヤルダさんというそうだ。名乗ったのは彼の世界の挨拶だ。トシをやっつけたいらしい」


「なるほど」


 よし分かったと、トシは改めて拳を握り締めた。


 俺的にちょっと和んだが、この状況、どうにもこのままにしておいていいわけはない気がする。


 しかし―――すぐさま止めるには、この二人の戦闘力が高すぎた。


「やるぞ! 俺がお前を仕留めてやる!」


「ん……」


 言葉を合図に飛び出した双方の拳がぶつかり合うと、すさまじい衝撃波が周囲を吹き飛ばした。


「―――!」


 当然俺も例外ではなく吹き飛ばされ、地面を転がり顔を上げると、トシと男の周りにある裏路地の壁には罅が走っていた。


 更に縦横無尽に戦い始めた二人が動くたびに、焼き菓子のように建物も道路も弾け飛んで、瓦礫が降り注ぐ。


 俺は何とか瓦礫の雨をかわしつつ、状況を観察していた。


「トシ! いったん……いや、今雑念を入れるのはさすがに危ないか……」


 咄嗟に止めようとしたが、相手がやる気な以上、簡単に逃げられそうもない。


 変身して、無理やり止めるかと考えていると、駆けつけて来た騎士達が俺達を取り囲み、その中の一人からハンソンの声が響いた。


「やめろ! ヤルダ! 街中で戦うな!」


「ああ? 馬鹿言え! こいつは間違いなくアスラ族だ! 顔を合わせたらやりあうのが礼儀ってもんだ!」


 なんだか目が合ったらバトル! みたいなことを言い始めた。


 恐るべしアスラ族とやら。うちのトシにはぜひとも、その辺り考えなおすように教育するとしよう。


 だが、制止が入ったことは助かった。ヤルダはハンソンの声に対応して意識がそれている。


 バリバリの戦闘状態は、抜け出したとみていいだろう。


 俺もこの隙にいったん、トシを呼び戻した。


「トシ! 本気で暴れるのはまずい! 落ち着くんだ!」


 このまま戦い続けたら、周囲の被害が大きいのは一瞬ではっきりした。


 更に闘争本能が暴走したら、下手すれば街中で巨大生物に大変身である。


 トシは俺の言葉にしたがって戻ってきて最悪の状況は免れたが、状況は良くない。


 騎士鎧を着たハンソンは部下を引き連れ、一歩前に出て俺に話しかけた。


「……ダイキチ。やはり君はトシ君のことを知っていたね? どういう意図でその化け物を連れているのか、真意を聞かせてもらいたい」


「これは、ハンソンさん。真意と言われても困ります。トシはうちの従業員ですよ。それに、数日も経たないうちに俺達は出て行きますが?」


「……そうはいかない。君には一緒に来てもらう」


「断ったら?」


「……我々は君の同行者の少女を拘束している」


「……えぇー」


 俺は、さっそくの脅迫に変な声が出た。


 こいつは厄介なことになった。


 俺は頭を抱え、悪い予感の的中率に眩暈をこらえた。


 しかも、どうもこれは俺達が招いた事態っぽい。


 まさかここに来てトシ関連で目を付けられるとは思わなかった。


 トシの戦闘能力は相当なものだが、そう簡単にバレるはずがないとたかをくくっていたのがどうやら間違いだったみたいである。


 あの自分をアスラ族だと名乗った男が、トシと同じ種族なのはもう間違いない。


 だから俺はハンソンと、そしてヤルダの順に視線を向けて言った。


「……そういう手で来ますか。なら、近いうちにまた会いに来るとしましょう。逃げ出したいところだったんですがね、人質まで取られたら仕方がない」


 更に俺は小声でささやく。


「……トシ。俺を抱えて逃げてくれ」


「! わかった!」


 タックルのように腰をトシに掴まれて、俺達はひとまず撤退した。


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