よく人に会う日
「この町は、結界の境目近くにあるから、未知の敵との遭遇が多い。平和に見えるが、それだけではないはずだ」
「うん」
「俺もそれなりにこの世界での生活は長いけど、あくまで結界内に限られる。ちゃんとここの雰囲気を体感しておこう!」
「うん!」
「そして店で売れそうなものを発見したら、買っておくように!」
「うん。わかった」
ざっくりと俺は今日の方針をトシに語って聞かせながら街を歩いていた。
「よく見ると……王都以上におかしな奴もいるなぁ」
「うん」
王都は行っても人間に見える種族が多かったわけだが、この街はそうでもない。
四足歩行の犬かと思いきや、ぺらぺらと人の言葉をしゃべりだしたり、なんだかよくわからないものがふわふわ飛んでいたりする。
「うーん。確かにこういうところが、内と外の違いってことなんだろうなぁ」
話を聞くまでもなく、一筋縄ではいかないと実感してしまった。
しばらく街を散策していたのだが、そこで俺達は見覚えのある青年とすれ違う。
「……ん?」
軍服のような黒づくめの美形は、ちょっと前に戦った相手だった。
「エンジョウ キョウジ氏……生きてたんだなあいつ」
「?」
トシが不思議そうな顔をしていたが、相手はこっちに気が付いていないので、こっそり物陰に身を潜めて様子を見てみる。
彼の服はどこか薄汚れていて、表情もなんだかすさんでいる印象である。
「これはぐずぐずしている暇はなさそうだな……あいつはともかく、お嬢様が追いついてきたらマズイ」
そっと気配を消して、見つからない別ルートを進む。
裏道をトシの手を引いて歩いていた俺は、今度は空から降って来た男が俺達の目の前に着地して、強制的に行く手を遮られた。
「うお! なんだ!」
バックステップで距離を取る。相手が落ちて来た場所を確認するが、飛び降りてくるところなんて、家の屋根しか存在しない。
一体何者かと目を見張る俺だったが、それは全く知らない赤毛の男だった。
「ちょっと待ちな……匂うぜ、そっちの角のあるガキ……ゆっくりと顔を見せろ」
男はなぜかトシに声をかける。
だがトシが顔を上げた瞬間、赤毛の男から感じたプレッシャーは尋常なものではなく、俺の全身には鳥肌が立っていた。
赤毛の男の表情はしかし、目を見開き、余裕など一切ない切羽詰まったものだった。
「お前……お前は! 知っているぞ!……この化け物め!」
そして男の額には角が二本生えていて、血のように赤く輝いていた。