石の街
車でのスピードよりは遅いが、やはり土地勘のある人間がいると旅はスムーズである。
歩くこと数日、騎士の人達ともそれなりに仲良くなってきたころ目的地にたどり着いた。
街と外界を遮る頑強な石造りの壁を抜け、中に入ると久しぶりに人里の気配を感じる。
道すがら少しだけ話を聞いていたが実際に目にした街は素晴らしい街だった。
目に入った町はまるで一つの城の様で白い石材を積み上げて統一された町並みはとても美しい。
石像などの芸術も盛んらしく、細かな装飾が街を彩り、町を囲う壁も王都よりも頑強で大型のモンスターでも突破は難しいだろう。
作りとしては王都と似ているのだが、石へのこだわりが見えるこの街独特の雰囲気が確かにそこにはある。
「どうだ? グランピーク領は大地の大貴族が収める土地だ。石の建築物は王都にも負けんぞ」
「確かにすごい。これが大地の大貴族が治める街か……さすがだなぁ」
「そうとも。この町には自然と大地属性の魔法使いが集まる。鍛冶職も多いから必要な物があれば用立てるといいぞ。肉については換金して後日持たせよう」
「何から何までありがとうございます。その時はお願いします」
軽い挨拶をかわして面倒見がいいハンソンと騎士団と別れた俺達は、今、さっそく大きなため息を吐いていた。
「いやー。なかなかハードでしたね。トレーラーから野宿はだめですよやっぱり」
うううと痛む体をさすっているタカコは、野宿がつらかったようだ。
俺はと言えば野宿は何の問題もなかったが、問題はもっと根本的だった。
「……入っちゃったなぁ」
俺の呟きにうんうんと大きな荷物を担いだまま頷くトシ。
すると、タカコが不思議そうに首を傾げた。
「まずかったですか?」
そうストレートに聞かれると、まぁまずいことはないはずである。
「あぁ。俺、一応指名手配中だから。大丈夫だとは思うけど……立ち寄る予定はなかっただけ」
ここから外に出てしまえば、追手の心配しか……いや元々は追手の心配もなかったはずだ。
しかし指名手配という単語は、思いの他タカコに衝撃を与えたようである。
「え? 一個も大丈夫な要素ありませんよね?」
「いや、指名手配されてるのは俺であって俺じゃないから」
「……どういうことなんですか? まさかこのトシ君も?」
「オレ、店員!」
「そうなの?」
まぁ事情というモノはそれぞれある。
説明したからと言って、それは理解が及ぶ者かなんて全くわからないだろう。
俺だって、完全にタカコの事情を完璧に把握してはいない。
「ああ、でも私はここにこれてよかったかもです。ホラ、ペンダントが……」
だから、タカコがそう言い出した時、俺は普通に驚いた。
そう言ってタカコが掲げたペンダントは、まっすぐこの町の城を指し示していた。