余計な一言
俺はふと正気に戻ると、塔はひどいことになっていた。
少々暴れすぎたらしく、気が付くと派手にいろんなところが崩壊している。
そして肝心のここに来た理由も……思い出した。
「あー……あのお嬢様は大丈夫だろうか?」
恐る恐る俺は塔のお嬢様が囚われていた部屋に戻ると、お嬢様の入ったガラス球はまだ健在で、相当丈夫で助かった。
大丈夫、顔は隠している。
俺は平静を装って堂々とガラス球に歩み寄ると、お嬢様に言った。
「少し離れていてくれ」
「……」
言う通りお嬢様は下がる。
妙に素直でなんだか意外だが、俺はそこに拳をたたきこむと、案外あっけなく砕けた。
どこかこちらの様子を窺うように出てきたお嬢様に俺は言った。
「大丈夫か? もう少ししたら、助けも来るだろう」
ちょっと、ヒーローっぽさを意識してみる。
するとお嬢様は、やはり何も言わずにコクコクと何度か頷いただけだった。
なんか、ホント意外。
少なからず驚いた俺だが、そろそろお暇するべきだろう。
自分勝手なヒーロー活動は基本いやがらせみたいなものだ。
周囲の様子を見回すと、大きく裂けた様にいい感じに崩れている亀裂もある。
塔はかなりの高さだが、このスーツならなんとかなるだろう。
さっそく飛び降りようか? でもこの高さはちょっと怖いな? なんて思っていた俺は呼び止められて立ち止まってしまった。
「あの……! わたくしの名前はシャリオと申します!」
俺はちらりと背後を盗み見る。
するとお嬢様は祈るように手を組み、俺を見ていた。
俺はそのまま逃げようとしたが、しかし続く彼女の言葉には反応せざるを得なかった。
「貴方は……わたくしを二度も助けてくださいました。貴方様は……きっと勇者に違いありません!」
俺は飛び降りる寸前で動きを止めて、今度こそお嬢様を振り返る。
「……いいや、それは違う」
「え?」
驚くシャリオお嬢様に、これだけは言わずにはいられない。
「勇者じゃない――俺はヒーローだ」
それだけ言って、俺は塔から飛び出した。
日は沈み、俺はマフラーを翻し、夜空を駆ける。




