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PS ヒーロー始めました。  作者: くずもち
新たなる旅立ち編
304/462

追いかけっこは終わらない

「ははは! 貴様ら、もう許さん! 関係ないと思って流してやっていればつけあがりやがって!」


 嘘つけ、撃ってきたくせに。


 即座に反論しそうになったが、今は置いておく。


 謎の力でゴーレムを操り、ドカンと派手に床を粉砕させた演出はまぁ良かった。


 しかし地下からここに呼んだのはいいが、床が穴だらけになっている。


 建築物へのダメージなど全く考えずに行われた破壊は、確実に修復不能なダメージをこの城に与えていた。


 ゴーレムは俺の前にも立ちふさがってシャリオお嬢様の姿も見えない。


 ゴーレム達による破壊によって、炎の檻に途切れた場所が出来たのが不幸中の幸いだろう。


 これで仕切り直せる。


 その一点だけに感謝しながら、この後どうするか思考を巡らせた俺だが……気が付いてしまった。


「脱出経路……出来たな」


 考えてみれば後は外に出るだけという状況である。


 一番厄介なシャリオお嬢様から俺は見えてはいまい。


 ついでに言うならキョウジが足止めもしてくれることだろう。


 俺は単純な思考を再開し、タカコをよいせっと抱え直すと、全力で逃げ出した。




「ハハハハハハ! このゴーレムどもは強いぞ! ゴーレム! そいつらを蹂躙しろ!」


 黒い髪を振り乱し、指示を出すキョウジだったが、シャリオはそんなこと聞いていなかった。


 炎の檻が破綻したことに大いに焦り、熱をサーチすると、恐ろしい速度で遠ざかる反応を感知。


 振り返れば自分たちの乗り物は瓦礫に埋もれて、すぐには追跡不能だった。


 瓦礫をどかそうにも部下の騎士達は、魔法の効果圏外にすでに退避しているだろう。


「……」


 これはもう絶対に追いつけない。


 諦めた瞬間に、周囲の有象無象に意識が向いた。


「……なるほど。岩製ですか? 炎の魔法とはいささか相性が悪いですね」


 それでも爆砕ならできないことはなかったが、今更そんなことをする気はない。


 シャリオは飛び上がり、ボルケーノプリンセス号に飛び乗ると、中に入る。


 不利と見て立てこもったと判断したキョウジは勝利を確信して高らかに笑った。


「ハハハハ、逃げても無駄だ! そんながらくたゴーレムどもがすぐに暴いて―――!」


 ガガガガと歯車が動くような音が聞こえて、ボルケーノプリンセス号は半分に割れていた。


「は?」


 そして中から出て来たものを目にした瞬間、キョウジは笑いを引っ込める。


 それは巨大で禍々しい人型だった。


 分厚い金属の装甲が折り重なった無骨な甲冑は相当に巨大で、立ち上がればゴーレムと同じくらいのサイズはあるだろう。


 ごっつい手足は、軽々と超重量を支え、全身から蒸気を吹き出すと動き出す。


「え、ええ?」


 キョウジの戸惑った声は、動き出した巨人の稼働音にかき消された。


 蒸気王と名乗った者の遺産は、魔法の力を上乗せし、生まれ変わった姿で再びこの世界で産声を上げる。


 中に納まったシャリオは、自らの能力で異界の力を我が物として、甲冑を赤く染め上げた。


「……許せませんわ。せめてとっておきの動作試験にでも付き合ってもらわなければ割に合いません」


 カッと、甲冑の体から炎が噴き出し、両腕を開いて回転が始まった。


 両腕から炎が噴射され、猛烈に加速された二本の腕のライアットは、周囲のゴーレムを吸い込んで、悉く粉砕する。


 それは死の竜巻だった。


 巨大甲冑はコマの様に移動し、数秒後にはゴーレムだったものの残骸が転がっている。


「ヒィ!」


 頭を押さえて蹲っていたキョウジは、ゆっくりと顔を上げる。


「……関係ないと見逃していればつけあがりましたわね? 高くつきますわよ?」


「……」


 シャリオは蒸気王の甲冑の中から他愛のない雑魚から腹の立つ敵となった男を見下ろし、怒りの炎を噴き上げた。




 タッタカターと俺は軽快に逃げていると、振動のせいかタカコがようやく目を覚ました。


「う、うーん……一体何が。え? 何で私ダイキチさんに抱えられて逃げてるんですか?」


 赤い顔でそんなことを言う呑気なタカコに俺はため息で応えた。


「え? なんでため息!? おろしてください!」


「まだ駄目だ。今逃げてる最中だから」


 そう言うと何か思い出したのかタカコが息を飲んだのが分かった。


「そうです! あいつはどうなったんですか! あのエンジョウ キョウジは! あいつは恐ろしい男なんです!」


「ああ、キョウジ氏か……彼は犠牲になったのだ」


「へ?」


 冷静になって考えてみれば、あの状況で置き去りにすればシャリオお嬢様の怒りが誰に向くかは明白である。


 悪い奴ではあったが、あの瞬間、彼は俺達のヒーローだったのかもしれない。


 チュドム!


 っと、空気が震え、俺とタカコはビクリと身をすくめて振り返る。


 すると脱出してきた石の城と、岩山が噴火していた。


 赤々と火柱と黒煙を上げて、上半分が吹き飛んでいるとも言う。


「……ハハハ。豪快だな」


「……彼は犠牲になったんですね」


 俺達は表情をひきつらせ、しばし黙り込んだ。


 今の状況といい、今日の俺は全然ヒーローっぽくない。


 今日の反省会は、色々課題が多そうだった。


「まだまだヒーローの道のりは遠いってことかなぁ……」


「え? なんですかそれ? ……うひゃぁ!」


 食いつくタカコに、俺は加速で応える。


 なんにせよ、本気で逃げねばまずい。


 先行させているキャンピングカーに追いつくにはまだ距離があった。


 ガンガンと降り注ぐ山の残骸をかわし、俺は逃げる。


 今日も俺は異世界に試されていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 悲しいかな、世界観が違った。元の世界でどんな巨悪だったか知らないけど、リアル系世界からスーパー系世界に来ていきがってたら、そりゃそうなるよね・・・
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