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PS ヒーロー始めました。  作者: くずもち
新たなる旅立ち編
302/462

俺だって怖い

「とまぁ罪状などどうでもよいのですが、しかし一度は連れて帰らねば始まらない……そうは思いませんか?」


 シャリオお嬢様は心なしか、先ほどよりも盛大に燃え上がっているようにも見える。


 恐怖を感じた俺は、気が付けばあとずさっていた。


「なぁテラさん……なんかすごく暑くなってきてないか?」


『現在室温が急上昇しています』


「ですよね……」


 きっと謎の乗り物からこちらを見下ろす女騎士、シャリオお嬢様の周囲の空気がいびつに歪んでいるのは気のせいではないだろう。


 彼女は乗物から飛び降り、着地すると空気が燃え上がっているようだった。


「ごきげんよう。このような再会は不本意ですけれど。その純白の鎧を再び見ることができてうれしく思いますわ」


 シャリオお嬢様からの丁寧な再会の挨拶は、どうにも開戦の合図に思えて仕方がなかった。


 謎の乗り物から、彼女の部下だと思われる騎士達がふらふらになりながらも、逃げだしているあたり、相当に事態は切迫しているようだった。


 俺はひとまずタカコを抱えあげ、キョウジの身柄も確保する。


 もう十二割くらい敵だが、別の世界に来て早々、何かのついでにウッカリ燃やされてしまうのは、いくらなんでもかわいそうだ。


 俺はヘルメットの下で肺の奥まで空気を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。


 そして自分の追手であるシャリオお嬢様を見据えた。


 炎を自在に操る魔法使いである彼女の魔法は、広範囲の殲滅に長けている。


 その力の性質上、どう考えても捕まえるなんて器用なことに向いているとは思えない。


「……うーん、穏便にとは期待できないかなぁ。そもそもどうやって追いついてきたんだ? 逃げ切れると思ったのに」


『少々目算が甘かったようです。戦いますか?』


「……いや、シャリオお嬢様とは戦えないだろ」


 状況からして仕方がないというには、俺の方にシャリオお嬢様には恩がありすぎる。


 ここはどうにかして切り抜けて、逃げ出したいところだが、俺の両手は完全にふさがっていた。


「……くそ。いったいこれは何なんだ!」


 そして俺の右手をふさいでいる方。キョウジの意識が戻ったようだ。


 死んでなかったようで何よりだが、タイミングは最悪である。


「……そのままおとなしくしていろ。死にたくないなら」


 俺はそう心からの忠告を囁くが、一度俺の手の中でもぞりと動いたキョウジは、何を思ったのか持っていた銃を抜く。


「くそ! これでも喰らえ!」


 そして、残っていた弾を全弾撃ちやがったのである。


 俺は追い詰められた鼠の予定外の行動に鎧の下で蒼白になった。


 混乱する気持ちはわかる、あの燃えるお嬢様がおっかないのもよくわかった。


 というか俺だって怖い。だが相手が悪すぎる。


 相手は猫なんかじゃなく、ドラゴンとだって渡り合うこの世界でも指折りの戦力の一角なのだ。


 ジュジュッと、飛んで行った弾丸は、シャリオお嬢様の目の前で液体のように弾け飛んでしまった。


 どうやら弾丸が熱に耐えられずに、形を保っていられなかったようである。


 明らかにシャリオお嬢様は、何らかのパワーアップを果たしていた。


 その結果に俺は目を瞑り。キョウジは顔色を失った。


「あら? 他にも妙な者がいますわね……今のは攻撃とみなしてよいのかしら?」


 オウ……シャリオお嬢様のヘイトがキョウジに移った。


 更に言うならより殺す方に意識が傾いた、冷たい口調に俺はゴクリと喉を鳴らす。


 この後どうなるかなど火を見るよりも明らかだ。


 俺は反射的に動くと、ピンポイントに爆裂する炎がさっきまで俺がいたところを景気よく燃やし、肝を冷やした。


「まぁ……とりあえず焦がすしかないですわよね?」


 いやいやいや、もっと選択肢はある! 


 俺は全力でツッコミたかったが、そんな余裕もありはしない。


 まだ意識を取り戻す様子がないタカコが俺の焦りを加速させた。


 今のシャリオお嬢様はニッコリ笑顔だが、相当に興奮しておられるようだった。


「ヒィッ!」


 恐ろしい熱風に炙られて、キョウジが悲鳴を上げた。


 このままでは俺は大丈夫でも、生身のタカコとキョウジを助けるのは困難だ。


 まったくなんで銃で攻撃なんて真似をしてくれたのか。


 そんなことするから、かろうじて会話が成り立つくらいの微妙な状況が壊れるのだ。


 こんなどちらかと言えば完全に敵の男をなんで助けなければいけないのかと俺はため息を吐き、そして気が付いてしまった。


 あれ? こいつ敵なんだよな?


 タカコもそんなようなことを言っていたし、パワードスーツを馬鹿にしたのが何より許せない。


 俺を追いかけていたであろうシャリオお嬢様も、今は騎士の訓練の賜物か、実際攻撃してきた男に標準を合わせているようにも見える。


「すまん……キョウジ氏。もうかばいきれない」


「おい? ……何を言っている?」


「生きていたら、また会おう」


「いや、ちょっと待て。それはさすがに! ……!」


 耳ざとく呟きを聞きつけたキョウジを、俺はとりあえず投げてみた。


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