トラップハウス
「ぬおおおお!」
俺達が変な穴に落ちたのは事故に近い偶然で、案外簡単に出られるんじゃないかとそう思っていた時期が俺にもあった。
しかし、実際には地下を脱出するために上に上がろうとすればするほど、罠のえぐさが増してゆく。
あの穴は、不用意に近づいた間抜けを、あの部屋に落とすためのものだったのだろう。
現在俺は今タカコを担いで、とげのついた鉄球から逃げている真っ最中だった。
「なんて古典的な罠だ! 畜生! 引っかかるのがなんか恥ずかしい!」
「上に行くほどバリエーション豊かって、絶対出られない奴ですよね! 希望をちらつかせて絶望に叩き込むとか、作ったやつは絶対性格最悪です!」
全くだと俺は心の中で同意する。
だが勢いで逃げてしまったが、対処の使用はなくはない。
「前の俺なら……どうにかして生き残る方法を探した……だがしかし、俺は変わった!」
「といいますと?」
「奴らの特権に手を出す……」
「特権ですか?」
「そう、それは―――」
追い詰められた時は閃きと、度胸! それは大事である。
しかし、非常事態には選ばれし奴らにのみ許された行動が存在する。
俺はくるりと方向転換、思い切り前蹴りを転がって来る鉄球に叩き込んだ。
ゴムボールのように鉄球は吹き飛び、坂の上に大穴を開けたのを確認して頷く。
これで安全になった。
「力押しだ。出来るならこれが一番早い」
「……そりゃあそうでしょうけれども」
やはり、これだ。パワーアップするためには意識改革も必要なようだ。
考えるより先に身体が動く。
とりあえず逃げるは、今の俺には消極的過ぎる。
ただ油断が過ぎると本気で死ぬ可能性があるので、程度が大切だろう。
今は見極めはまだシビアに成功経験を積み重ねて経験値を稼ぐ。そしてこれくらいの罠はまさに練習にちょうどいい。
「あーもう。全部力押し出来たらなぁ!」
「ええええ、なんですかその脳筋発言……」
タカコの容赦ないツッコミが飛んできたが、せっかく鉄球を打ち返して新しい道もできたことだし、タカコのセリフは聞かなかったことにして、俺は突撃する。
それからもトラップは山盛りだった。
ギロチンの振り子に、飛び出る槍。
壁が迫ってくる部屋に毒ガス。
「だが、大体殴れば解決だ!」
「全部引っかかるのはさすがに雑すぎませんかね!」
全力でツッコミを入れるタカコは今しがた破壊した毒ガス部屋の壁から這い出て来た。
「確かにそう……雑だ! だがな、言っても雑な方が……早いんだよ! こういう時は」
「いいじゃないですか。命は大事ですよ!」
タカコは俺のマフラーをぐいぐい引っ張って言うが、間違っちゃいない。
計算的に行われる慎重な行動は生存率を高めるだろう。
しかしその分行動が一歩遅れる。
「だがその遅れが、致命的なんだよな」
「何言ってるんですか?」
「……こっちの話だ。ほら、見てみろ。外だ」
俺は結果としてたどり着いた、日のさす出口を指さした。
「これで一件落着だ。ゴーレムは面白かったけど、他の罠はいまいちだったなぁ。あの毒ガス採取しとくか?」
「ダイキチさんはアグレッシブに恐ろしいこと言いますね。毒は本気の専門知識がないと死にますよ?」
冷や汗交じりに心配されたので悩んだが、やっぱりちょっとだけ持って帰るとしよう。
外が見えたことで若干気の緩んだ俺達だったが、そこでパチパチと拍手の音が響く。
「よくここから出てこられたな……いいボディーガードを見つけたじゃないか」
話しかけて来た知らない声に警戒を一気に引き上げ、俺は―――。
「ふん!」
とりあえず殴り倒しに行った。