動かないのでは?
期待に胸を膨らませていたからと言って、いきなり誰もいない中で話しかけられたらそれはビビる。
俺は念のため周囲を確認。誰かのいたずらという可能性を消した上で尋ねた。
「テラさん……い、今しゃべった?」
テラさんとはここの管理コンピュータみたいなもので、便宜上俺が付けた名前だった。
ところどころに記されていたメーカー名っぽいマークが名前の由来だが、特に意味はないので念のため。
そして半信半疑の質問を、聞きなれない声は肯定した。
『はい。基地機能の一部が回復し、会話が可能になりました。この基地は今から130年前に前マスターにより破棄され、その機能のほとんどを凍結していました。まさかジャンクパーツでここまで出来るとは驚きを禁じえません』
「お、おっす。うまくいってよかったよかった……」
だが驚く一方、俺はそれでこそと目を輝かせていた。
『ではマスター。今後の方針に変更はございますか?』
テラさんは改めて尋ねてきたが、俺は思わず首を捻った。
「今後の方針? とりあえず、まだパワードスーツは動いてないしなぁ」
俺はテラさんが基地の機能を復旧しないとだめだというからまず基地を修理しただけだ。
基地が動いたことは大いにめでたい、それは確かなのだがそれはメインではないだろう。
俺の最も重要な目的はパワードスーツの起動だ。
それを達成できなければ頑張った意味がない。
なぜパワードスーツが欲しいのかといえば、まぁ色々理由はつけられるが、今は置いておこう。
この基地のコンピュータであるテラさんの手引きがなければ、俺にまともな修理などできるはずもないのだから、指示が欲しいのは俺の方だった。
『では引き続きパワードスーツを完全起動させることを第一目標としましょう』
「そうだね。なんにせよ動かさないと話が始まらない」
俺はパワードスーツに視線を向けた。
今はほとんど装甲もなく骨組みに近い代物だった。
だがいかにもパワーをアシストしてくれそうな未来的な機械は、目にしただけでもテンションが上がる。
ただでさえ盛り上がっていたのだが、テラさんはまた素敵ワードを出してきた。
『パワードスーツの完全起動には時間がかかるでしょう。メイン動力であるエレクトロコアが現在取り外されています。基本的に戦闘時にしか持ち出しを許可されていません』
「エレクトロコア! なにそれかっこいい!」
思わず鼻息が荒くなって、よだれを垂らす俺にテラさんは言った。
『はい。パワードスーツのカテゴリーは武装に該当しますので、保管時は動力を切り離し、別区画での保管が義務付けられています。基地機能が回復したことで保管庫の解錠が可能になりました。全従業員が確認できない現在、マスターはこの基地の最高管理権限を持っていますので許可については問題ありません。セキュリティを解除しますか?』
「ぜひお願いします!」
喜んで頼むと、テラさんは言った。
『エレクトロコア自体はこの基地内に保管されていることを確認しました。しかし保管該当区画は現在土砂で埋まっています』
「まぁ、そうだろうな。となるとだ……」
何を言い出すかと思えばそんなことくらいなら想定内だ。
基地の中のほとんどが埋まっているんだ。ならば探し物も土の中だろう。
俺はうむと頷き、さっそく行動を起こすことにした。
「よし掘ろう! ちょっとツルハシ持ってくる!」
『そうですか……今から? 本気ですか?』
今からと言われれば、まぁ仕事が終わった後だからそれはいい時間である。
テラさんは驚いたようだが、あるとわかっているなら探すのにためらいなどあるわけがない。
「あったりまえだろ! 地面の底だろうと取りに行くさ!」
『……エレクトロコアの無事を祈りましょう』
「そうしてくれ! 安心しろ! 俺は穴を掘るプロだ!」
『ならばついでに自動工作機械と、メンテナンス用具一式の発掘もお願いしてよろしいですか?』
「お、おう。やってやるとも!」
まさか追加の注文があるとは思わなかったが、便利そうなのでそれもまたよしだ。
だが興奮して準備をしている俺を見て、テラさんは言葉を漏らす。
『なるほど……元管理者が残した面白い言葉があります」
「なにそれ? 興味ある」
元管理者とは、130年前の異世界人だろうか?
一体大昔にこの世界にやってきた人間は、どんな言葉を残したのだろう?
単純な好奇心だったのだが、俺は飛び出した答えについ眉間にしわが寄ってしまった。
『転移してきた人間は頭のネジが一本外れている』
「う、うむぅ?」
一言言ってやろうかと思ったが、今はツルハシを取って来よう。
テンションマックスな俺は誰にも止められないなんて思ったが、俺はテラさんの一言で簡単に止まってしまった。
『本当に今から作業をするというのなら……パワードスーツを使用してみますか?』
「はひ?」
その矛盾する発言は、きっとどんな魔石の塊より魅力的だった。