トラブルメーカー
俺は内部構造がまるで迷路のように入り組んだ城内を、進んでいた。
たまに出てくる石像ゴーレムは一人になれば敵ではない。パワースピード共に完全に勝る相手に遅れは取らなかった。
余裕の出た今では、石像ゴーレムの中にあった核もいくつか回収済みである。
「よしよし。何かに使えるといいなぁ」
『あまりわけのわからないものを搭載しすぎると、また暴走しますよ』
「馬鹿言うなよ。それをしないと旅の意味がないじゃないか」
更なる力を求めているから、この機会に旅を始めたんだ。
こういうコツコツとした活動が、パワーアップにつながるのである。
まぁそれはともかく、俺には驚くべきことがあった。
それは現在先導して道を探っているのはタカコだということだった。
なんとなくうっかり系のキャラだと勝手に思っていたのだが、ここが見せ場だとばかりにタカコは率先して謎の城を調べていた。
「この城はなかなか面白いですねー。やっぱりゴーレムは侵入者に反応してるだけっぽいです。城の中に刻んである文字は呪文みたいですね。かなり古いもののようですが、警報みたいな物っぽいですよ」
「そ、そう言うのまでわかるんですかタカコさん」
「ふふん。伊達に異世界渡ってませんよ? まぁ使いこなせるってわけでもありませんけど、物事の本質を掴まなければ危険を避けることはできないとはお姉ちゃんの言葉です」
声高に主張するタカコに俺はクスリと笑みをこぼした。
「そのお姉ちゃんと一緒に旅を?」
「いえ……姉は突然いなくなりました。異世界を渡る方法を編み出したのってお姉ちゃんなんです。ある程度の素養と、さっき見せたペンダントを使うと異世界に移動できるんですけど、私はそれを使ってどうにか追いかけているだけです」
タカコはそう言って自分のペンダントを手に取った。
なんというか思い切った姉妹だと思うが、異世界を渡ることは魔法の様な能力でないのは少し驚いた。
「へぇ……そのペンダントでねぇ。じゃあそれを使ったら俺も他の世界に行けるのか?」
疑問を口に出すとタカコは首を横に振った。
「いえ、それは無理だと思いますよ。やっぱり特殊な素養は必要なので。それにペンダントは私専用に調整されてるんです」
ああやはり特別な感じですか、わかってたとも。
大体いつもそんなかんじである。
気分を切り替えてなるほどなーみたいな顔をしていると、タカコはしゃべりすぎたかと顔色を青くしていた。
「ま、まぁ。このペンダントに関しては簡単に作れるものじゃないですから。お姉ちゃんがいなくなって、私の世界に現存しているのは私の持っているこれともう一個だけでした」
「へぇ」
「まぁそうであっても、わざわざいくつも世界を回ろうなんて無茶なまねは誰もしないと思いますけどね! 私たち以外は!」
なんだか焦らせてしまったようだが、俺自身は異世界への移動は興味がないので気にしなくてもいい話である。
「危険なんだってことは俺もわかるよ」
俺だって異世界に来るなんて経験は一度しかないわけだが、別の世界に移動することが危険な行為だということは身にしみてわかっていた。
失敗すれば、簡単に死ぬこともあるだろう。
このダストボックスだって、色々な世界がごちゃごちゃに入り混じっていてとても安全とは言えないだろう。
タカコにも思うところがあるようでほろりと涙ぐみながらしみじみとこぼす。
「そうですよー。私の行った世界は比較的安全な世界ばかりですけど、常識なんて全然通用しないんですから! うろうろしてるうちに、色々詳しくもなるってものです!」
「ちなみに……どうやったらこの世界は終わりって決めてんのさ?」
「そりゃあ、お姉ちゃんが他の世界に行った痕跡を見つけたら終わりですよ。ですがそれも今回でラストです。間違いなくお姉ちゃんはここにいます!」
「へぇー」
やけに断言するタカコに、俺は相槌を打つ。
なるほど。あのペンダントにはまだまだ秘密があるらしい。
何を根拠にラストだと言っているのかは気になるが、他にも気になることはあった。
例えば前の世界から転移してきた時、どうやったら電波塔をもぎ取ることになるのかとか、その辺り説明が欲しいが、タカコは全く語ろうとはしない。
「?」
まぁこの先、話していれば知る機会もあるかもしれない。
だだこの天然のトラブルメーカーを前にして、俺は妙に嫌な予感がぬぐえなかった。