ヒーローの試練
ゴゴ、ガガっと石臼を回したような、音が無数に響く。
かなりの重量があると思われる足音が振動で床を揺らし、俺達を目指してやって来る。
俺達が落ちた穴から差し込むわずかな光の中に闇の中から顔を出したのは、十メートルほどの黄土色の石像だった。
だが動いている。
音こそ確かに岩のものだが、あまりに滑らかに動く石像は不気味に俺達を見ているようだった。
「ふにゃー」
「ふにゃーじゃないよ。気を失ってるんだよな?」
白目をむいているし、それは間違いないと思う。
そこで、心持ち真剣な雰囲気のテラさんは耳元で囁いた。
『緊急事態です』
「どうしたテラさん?」
『あの石像の中身……空洞ではありません。間違いなく芯まで石でできています。ありえません。何でこう、この手の技術は雑に高度なことをするのでしょう? 動力一つないなんてさすがに理不尽では?』
「あれ? そこ重要かな? 今?」
『重要です。アレは我々を完全に侮辱しています。機械文明がどれだけの苦労でロボットを作っていると思っているのですか? 私は、非常に腹立たしい』
「……どいつもこいつも危機感がない」
『というわけで即座に殲滅を推奨します』
「おーい未だかつてないほど傍若無人な物言いだぞ?」
『きっとマスターの影響を受けたのでしょう』
テラさんは密かに魔法なんかにもフラストレーションを溜めてたんじゃないかと不安になったが、ひとまずそれは脇の置いて、迫る石像の平手をひとまず避けることに集中する。
「……う!」
だが飛んでかわそうとした俺は、ガクンと気絶したタカコの首が振り回されている感触に呻く。
咄嗟に加減したが、目の前を通り過ぎる手のひらはギリギリをかすめていった。
「この!」
俺は苛立たしさを感じて蹴りを叩き込んだ。
石像の腕を粉砕したが、思ったよりたやすく砕けた石像は石礫になって降り注ぐ。
いつもなら完全に無視しているところだが、今日はそうはいかない。
「……!」
咄嗟に自分の体を盾にしてタカコをかばい、今度は大げさなほど退避した。
「テラさん……ちょっと明るくするぞ」
『了解 光源を発射します』
左手に光が集まり、連続で放たれると、部屋が明るく照らされた。
石像の数は全部で十体。
俺が石像の腕を破壊したことで、いったん動きを止めている。
部屋の中は、外観と同じで建材は石のようだが、いくつか倒れた柱と深い罅が気にかかる。
「爆発系は……この建物が崩れるか? っていうか、こんなにかばって戦うのって難しいのか?」
俺ははっきりと戸惑っていた。
今までは守られる側だったと強く意識してしまった瞬間である。
タカコはあまりにもか弱かった。そして今まで俺の周りにいた人間はあまりにも強かった。
タカコの姿に今までの自分が重なり、なんとも言えない気分になったが、今ここで足を止めている暇はない。
目を凝らせば、巨腕はすぐそこまで迫っていた。