石の城
「ちゃんとお土産も持って来たんだぞ! じゃあ死ぬなよだいきち! また遊びに来る!」」
思ったよりもあっさりと帰って行ったツクシが持って来たリュックの中には、傷薬や包帯などの医療品の数々がぎっしりと詰まっていた。
雑貨屋が大量に仕入れたら、何事だと勘繰られそうな品々のお土産とは、なかなか気が利いている。
「しかし……めんどくさそうなことも言って帰ったな」
俺はこっそりとため息を吐く。
常識的に考えたらシャリオお嬢様が俺に追いついてくる事なんてほとんどありえない。だけどなんだろう。
「……なんでこんなに不安になるのか。まぁいいか」
そう思うのだが―――ツクシの勘は侮れない。
俺は漠然とした不安を抱えて、その日は眠りについた。
ツクシが突然やって来た数日後、俺達は荒野の途中でおかしな場所を発見した。
黄土色の岩山に、似たような色の加工された石造りの古めかしい城のような建築物が一体化している。
俺達もセンサーがなければ間違いなく見逃していたに違いないが、それは間違いなく誰かが作った建物だった。
「……ここですね間違いないです。転移してきて混ざっちゃったのか、元々こういう建物なのかそこまではわかりませんけど」
「石の城か」
だが岩山に混ざりこむ様に建てられた城には人が住んでいるようには見えない。
しかしタカコの持ったペンダントはうっすらと輝いて、石の城をまっすぐ指示していた。
「うーむ……どうやらこの石の城は怪しいですね」
「中になにかいるのか?」
「いますね。間違いありません。異世界から来た人間が」
「マジですか、タカコさん……」
俺の目は若干疑わしいものになっていたが、タカコはこの城を売り込みのチャンスとでも思ったのか、妙にやる気満々に目をきらりと輝かせた。
「ええマジですとも。では早速中に入って調査するとしましょう。私の姉は言いました、手に入れたいものがあるならためらうなと。さぁ行きましょう! こんなところでぐずぐずしている暇はありませんよ!」
「お、おうともさ」
ズビシと石の城を指さすタカコは善は急げと勢いのままに突撃した。
ペンダントが指し示しているということは一定の信頼はあるのだろう。しかし、何かあるとわかっている場所に、そうやって突撃するのはあまりにも不用心なのではないだろうか?
何か言った方がいいかと頭をよぎった時には、すでにタカコは入口らしき四角い穴から城の中に入るところだったのだが。
「おい……」
タカコは声をかける前にボコッと彼女の足元に開いた穴に落っこちていた。
「へ?」
「おいマジか!?」
どういうことなのそのトラブル遭遇率!
俺は大慌てて飛び出して、タカコが落ちた穴へと飛び込んでいた。
「ぎゃああああああ!」
なりふり構わない悲鳴が穴の底へと落ちてゆく。
穴は相当深く、致死性のトラップみたいなものだったが、今回の場合は好都合だ。
「転送だ!」
すぐさまパワードスーツを転送すると、マフラーを伸ばしてタカコの体を絡めとる。
「グンエ!」
突然力のベクトルが真逆になって、タカコは悲鳴を上げた。
俺はエビぞりの状態で飛んできたタカコをどうにか空中でキャッチする。
そこでようやく地下の空間にも床が見えて来て、俺は着地に成功した。
衝撃で足元の岩が割れたが、何とかセーフ。
「大丈夫か?」
「……ブクブクブク」
「……まだ、生きてるよな?」
タカコは口から泡を吹いて気絶していたが、たぶんセーフだ。
見上げると、落ちてきた穴ははるか上で、点のようにわずかに光が見えた。
頑張れば戻れるかもしれないが、今は少し厳しそうだ。
なぜなら俺達が地面に降り立った瞬間、周りの闇で巨大な何かが動き出したからだ。
「一難去って、また一難だなぁ……」
気絶者一名を抱えて、謎の敵と殴り合い。
難易度は高いが、何が何でも突破しなければならないシュチエーションに俺は燃えて来た。