ちょっとかっこいい会話とかしたくなる夜
俺達は進む。どこまで続くかもわからない荒野をただまっすぐに。
吹き出すエアコンの風に、地面の揺れを吸収するサスペンションの軋み。
乾燥した風に、肌を焼く太陽。
最初の襲撃以来、モンスターとの遭遇はなかったが、広大な大地はそれだけで大自然の過酷さをひしひしと感じることができた。
しかし長い旅の中で大自然は過酷なだけではない贈り物を俺達にくれる。
タカコは言う。
「うわぁ、今日も夕日がすごいですね。地平線が燃えてるみたい」
それに俺は答える。
「ああ。今晩は天気がいいらしい、いったん止まって、外で野宿でもしてみるか」
「いいですねそれ!」
せっかくこんな旅をしているのだ、都会では得難い体験を求めるのも一興だろうと俺は考える。
夜は冷えた。ブランケットと、こんな時のために用意したちょっとおしゃれな小さめの椅子に座り、周辺から燃えそうなものを集めて焚火を作った。
本日の夕飯はベーコンとトーストとスープだ。
食事を終え、俺はやかんでお湯を沸かし始めた。
俺とタカコは焚火を囲み、空を見上げる。
空には未だかつて見たこともないほどの星空が広がっていて、思わず息を飲んだ。
どんな巨大な映画館だって、ここまでパノラマな境を映し出せはしない。
無限の広がりを感じる圧倒的なスケールの空を、しばし旅人の俺達は五感すべてで感じていた。
「すごい星空です……」
「ああ、なんだか自分がちっぽけに思えてくる」
「わかりますよそれ……。でも少し不安にもなっちゃいます。空にこのまま落ちていきそうで……ちょっと落ち着かない感じがします」
不安になるか―――その気持ちも確かにわかる気がする。
でもそれはきっと、あの深い闇が俺達の心を浮かび上がらせているのだろう。
俺は穏やかに微笑み、そして持ってきていた珈琲豆にお湯を注いで、タカコに渡した。
「温かいよ。飲もう」
「いいですね!」
静かすぎるほど静かな空間で、焚火の音を聞くだけの贅沢な時間が過ぎてゆく。
だがその静寂に突如として異音は紛れ込んで来た。
「んん?」
なんじゃい人がめっちゃ浸っている時に。
気分はロードムービーの主人公だったが、一気に現実に引き戻されてしまった。
音源はキャンピングカーからで、どたばたと車が揺れると吹き飛ぶような勢いで扉が開き、中から白い鎧を着た少女が転がり出て来たところだった。
「うおおい! だいきち! 無事か!」
そして出てくるなり俺の名を呼んでいた。
「……どうしたよ? ツクシ?」
きょとんとして俺は転がり出てきた少女の名を呼ぶ。
するとツクシは涙目で、ものすごく悔しそうに俺に飛びついた。
「だいきちだ! ゴメンなだいきち! 僕が不甲斐ないばっかりに一人で旅に! でも一回も連絡しないのはひどいぞ!」
「お、おう。落ちつけツクシ」
ツクシはぐりぐりと俺の体に頭をこすりつける。
そういえば出発してからまだ一度も連絡はしていなかった。
「指名手配だもんな! さぞかし大変な思いを……ん?」
だが突然ツクシの動きはピタリと止まる。
そしてツクシはクンクンと鼻を動かすと、食べ終えた食器と俺が入れたコーヒーを発見。
さらに目を丸くしているちょっとおしゃれな椅子に座るタカコを見つけてツクシぷっくりと頬を膨らませる。
「……キャンプうらやましい! エンジョイしすぎだぞだいきち!」
「うんごっふ!」
そこから鬱憤をぶつけるようなジャンプは俺の顎を直撃した。