確認してみた
「フームもう少し調整がいりそうだ。動きが今一あってない感じだ」
『今回のデータを元に再調整します。マスター自身の身体能力も向上している節が見られます』
「お? ほんとに? 毎日のトレーニングの成果が出てきてるか?」
モンスター騒動も一段落したその日の夜、俺がにこやかに、車の中でパワードスーツの整備しながら問題の洗い出しをしていると、視線を感じて振り返る。
するとそこにはじーっと俺を見る、タカコがいた。
「そんなに見つめるなよ。視線で溶けそう」
「いやいや溶けませんから。目の前でよくわからない作業を延々されるとさすがに目で追いますよ」
「それもそうか」
俺は納得して頷き、作業に戻ろうとするが、素早く今度は肩を掴まれた。
「よろしければ、この世界について教えてほしいのですが?」
「……とは言ってもな、あんまり役には立たないと思うよ?」
「それでもお願いします!」
今いいところだったのだが仕方がない。
今更世界の説明なんてテレもあるが、俺は作業を中断してタカコに向き直った。
タカコはコホンと咳ばらいを一つすると、さっそく俺に質問を始めた。
「ええっと、ダイキチさん。貴方は旅の途中なんですよね?」
「そうだよ。もっと強くなりたくってね。その方法を探してる」
だがそう言うと、タカコはかなり驚いていた。
「えぇ―もう十分強いじゃないですか」
「……それはないな。この間もやらかしたばかりだ。ぼろくそに負けたしな」
「……マジですかそれ」
マジもマジ、そこのところは偽るわけにはいかない過去なのは間違いなかった。
「もちろんマジだ。この世界にいるやつはとにかく強い。パワードスーツに限らず色々手を出したけど、それでも届かない化け物がごろごろしてるんだよ」
「何ですか、その混沌とした世界……今までの世界だってそこまで危険じゃなかったですよ?」
引き気味に恐れおののいているタカコだが、確かにこの世界は混沌としていて、常識が通じない世界であるともいえる。
うーんやっぱりそうなのか。俺もここめちゃくちゃだと薄々思ってた。
それはともかく、俺に教えられるのは少なくとも王都周辺に関することなのだが、今となっては意味があるかもわからなかった。
もし意味があるのだとすれば、このタカコちゃんの今後の行動次第といったところである。
「で、その混沌としてる世界に自分から飛び込んで来たっていう、君はどういう人なんだ?」
正直あやしいと、そういう態度を前面に出して尋ねてみると、タカコはキリッとメガネを上げた。
「ああそうですね。意味不明なのは私ですね。いやーでも最初に話したことに嘘偽りはないので、あっさり流してもらえるとありがたいんですが」
「流したいところではあるんだけどな。見ず知らずの俺に嘘偽りなく話すってのも引っかかるところはある」
「そう言われてしまうと、言葉もないんですけどね」
ハハハと苦笑いを浮かべるタカコは、どう言ったものかと視線を巡らせ、結局こう説明した。
「私、嘘もリアリティがないと意味がないと思っているんですよ。世界を渡るとだいたい常識すら通用しないので、自然と沈黙か正直に話すかしか誠実に物を頼む方法はないんじゃないかと」
それはまぁ確かに。嘘ってやつは何気に高度な話術だ。
タカコが異世界からやって来たことは間違いなく、そんな状態で吐く嘘がどれだけ効果的なのかはわからない。
「ま、最初はそうだわな。そしてこっちに来たのを見ていたっぽい俺にしか通用しない手ではある」
「はい! おっしゃる通りです!」
タカコは我が意を得たりと、ここぞとばかりに気合の入った返事をする。
調子のいい娘である。
ただ、敵対する意思はなさそうだった。
なら別に俺には彼女に何かをしようという意思もない。
「じゃあどうする? 俺は訳あって元の拠点には帰れない。だけど君をすぐにでも人里に送ることはできる」
「へ? そんなことができるんですか?」
意外だったのか目を丸くするタカコに俺は頷いて見せた。
「ああ、出来るよ。人探しなら君だけ戻って探してみるのもありだと思う」
王都あらば、人の往来も多く情報は集まる。
人探しというのなら、そう悪くない環境だと言える。
「それはいつでも使えるんですか?」
「ん? ああ。いつでも大丈夫だ」
「なるほど……」
ふむふむと頷いたタカコは眉を引き締め提案をした。
「あの……貴方についていってもいいですか?」
「ん? なんで?」
「はい! 姉は珍しもの好きなんですよね! 私としては出来る限り色々な場所に行ける事が一番目的を達成する近道だと思うんですよね!」
なるほどそうくるか。
俺はどう答えた物かと本気で悩ませた。