俺も昔はそこにいた
「あいつらまだあきらめてなかったのか……」
そりゃあ派手に戦ったが、荒野をここまで追っかけてきたのは驚きだ。
どう見たって走ることに特化しているわけではない生物だ。車に追いつこうとするその執念が恐ろしい。
「さて、こりゃあ本格的にやりあうしかなさそうだ」
主に後ろのタカコに向けてそう言うと、ガシリと腕を掴まれた。
タカコは俺の腕に縋り付き、血走った目でこちらを見ていた。
「あのー……申し訳ないんですけど。私も一緒に守ってもらいたいんですが、いいですかね? 私めちゃくちゃ弱いので」
先ほどの自信があるという言葉を全部なかったことにするようなぶっちゃけ具合だ。
だが確かにその分析は正しいはずだ。
俺だってあのモンスターに生身で挑めば簡単に死ぬだろう。
だからこそ、なりふり構ってなんていられない。
助けを求めるなんて言うのは基本中の基本である。
この感じには俺にも覚えがあった。
「……」
「お、お願いしてもいいですかね! というか引き受けてもらわないと死んでしまうので断言してほしいところです!」
「とりあえず……縋り付くのはやめてくれ、俺も死ぬ」
「いえいえ。一人死ぬのも二人死ぬのも変わりませんので!」
「すごいことを言うなぁ。俺にしてみたら大いに変わるんだが? ……まぁ任せておくといい。見捨てたりはしない」
だが俺にしてみれば、中々新鮮な経験だった。
この娘は、俺がいればあのモンスターをどうにかして、生き延びられると考えている。
助けられてばかりいたが、頼られると確かにこれは引くわけにはいかない。
俺が頷いて見せるとがっちりと全力で捕まれていた拘束が若干緩んだ。
「ほんとですか! ほんとですね!」
「じゃあ急いで車で待機! こいつは借りにしておくから出世払いで返してくれよ?」
「は、はい! これでも将来性には自信があります!」
「ああ、期待しないで待ってるよ……」
出来る限りそっけなく言って、俺はモンスターに視線を向けた。
一際デカいボスゴリラの視線はピタリと俺に向いている。
鼻息が荒く、全身の血管を浮き出させるほどの興奮具合は尋常ではない。
先ほどより明確な敵意を俺はビリビリ感じた。
「転送」
『了解』
テラさんの声がして、俺の体にパワードスーツがもう一度装着される。
転送装着も問題はない。
戦闘態勢が整うと、完全に合致した敵の姿にゴリラ型のモンスター集団がすべて興奮し始めた。
血管が切れそうな雄叫びは、俺を殺す気十分だ。
「今回は俺を追ってきたみたいだな」
『どうやらそのようです。逃亡を優先しますか?』
「いや、撃退だ。さっきだって別に手加減して逃げてたわけじゃないんだ」
『了解しました』
そう答えたテラさんの言葉で、いきなりタカコの逃げ込んだキャンピングカーは変形する。
SF的な大口径の銃らしきものが天井に二丁、両サイドに一丁ずつ飛び出して、自動で照準を合わせた。
恐ろしく戦闘的な姿になったマイカーを見やって、つい俺は唖然としてしまった。
「……どこから持って来た?」
『宇宙船には標準装備です』
車がいきなり変形してアワアワしているタカコが目に入り俺は思わず苦笑した。
「間違って俺まで撃つなよ?」
『善処します』
短めの今一信用できない返事の後、猛烈な銃撃音がばらまかれ、俺はそれを合図に走り出した。