異世界から来たメガネ娘
「うーん…………」
「あ、起きた」
うめき声に気が付いた俺は、テラさんに運転を任せて後ろの機材のエリアに移動する。
気を失っているメガネ娘は、テラさん調べで怪我はないらしい。
どさくさで連れ帰ってしまったが改めて観察してみると、同郷にしか見えない女の子は何しろ異質な存在感だった。
「んー……んー?」
むくりと体を起こしたメガネ娘は、完全に寝ぼけ眼のままぼんやり車内を眺める。
そして再び横になると瞼を閉じ。
「ふにゃー……」
「おい!」
「ひゃ! へ! おはようございます!」
声をかけると大慌てで飛び起きた。
きょろきょろ周囲を確認した時、長い一本のおさげがバシバシ俺の顔に当たったが、今は許すとしよう。話が進まない。
「……はい、おはようございます。ってそうじゃない。二度寝しないでくれよ、割と今の状況はそれどころじゃないはずだ」
「……そうですね。それでは一体ここはどこなのでしょうか?」
おっと意外と冷静な返しをしてきた。
二度寝し始めた時は大丈夫かと心配だったが、ひとまず話ができそうで何よりだ。
俺は頷き、さっそく状況を説明することにした。
「とりあえず気の毒だが、まずここはたぶん君が元居た世界じゃない」
そこを認めてもらわないと話が始まらない。
さぞや、ここが一番もめるところだろうと思っていたのだが……メガネ娘は、きょとんと眼をまんまるに見開いたが、とても嬉しそうににっこりと笑った。
「そうですか! 成功したんですね! さすが私です!」
「……は? 受け入れるの早くないか? というか受け入れるのか?」
「ええはい。お騒がせしました。私の名前は夏生 タカコって言います。気軽にタカコって呼んでくださいね!」
初対面の怪しい男に対して、この娘は少々なれなれしすぎるのではないだろうか?
年のころは俺より少し下と言ったところだろう。顔の印象はよく見ると日本人というには顔立ちがはっきりしていて、いい意味で印象的である。
どうにも警戒心が低すぎると俺はそう断じることができた。
このメガネ娘大丈夫だろうか?
色々と心配になりながらも俺は咳ばらいを一つする。
「うおっっほん! 俺の名前は大門 大吉。日本から来た異世界人だ。ちなみにここは俺の車の中だ。今旅の途中でね。君はタワーの展望台で気絶していた」
「車ですか?」
「あーっと、車わかるか? その恰好ならわかると思うんだが」
俺はメガネ娘の着ている制服と思わしきブレザーを指してそう言うと、彼女は自分の格好を見て、なぜか立ち上がり、くるりと回って見せた。
「ああ車はわかりますよ? でもこれは前の世界の服なんです。特別前の世界に詳しいわけではないのであまり期待はしないでくださいね」
「前の世界? なんだそれ?」
何か意味不明なことを言われた気がするのだが?
俺は疑問符を浮かべているのを見て、メガネ娘はアハッと笑い、今一緊張感なく、やはり妙なことを口にした。
「そうです前の世界です。私はジャンパー……えーっと。いろんな世界を渡ることができるのですよ」
「はい?」
「あ! 疑ってます? 本当ですよ?」
そしてやはり穏やかに笑って見せる。
だが見知らぬ俺に対して、あっけらかんと事情を語るのはある意味大物である。
「……また起きても妙な子だなぁ」
「?」
俺はさすがに頭を抱えてしまう。
メガネ娘はいたって真面目そうに答えているようにも見えるが、言っていることは俺の常識からはだいぶん外れている。
だが俺とてこの世界に来て常識を投げ捨てることには慣れていた。
「まぁ君は、そのジャンパーという能力でこの世界に来たと? 何のために?」
「はい。ちょっと探し人がいまして」
そう言ってキリッと眼鏡を上げるメガネ娘。
わざわざ人を探して世界を超えてくるなんて、冗談でも気合の入った話だ。
「この世界にいるのか?」
「はい! なんとなく勘みたいなものですが、世界がうねうねしてる感じとかわかるので! 特に姉に関しては敏感です! 家族の絆的なものではないかと自負しています!」
「へー」
エッヘンと大きめの胸を張るメガネ娘。
「それでこの世界が、君の目的地なわけか?」
「はい。そうですね」
頷く。
だが俺には先ほどまでの状況を踏まえてだが、ちょっと引っかかるところもあった。
「そうなのか……じゃあそのジャンパーってのは、すごい能力なのはわかるんだが、この世界モンスターとかいて、かなり危険なんだが大丈夫なのか?」
「あはははは、大丈夫じゃありませんねー。ジャンパーって他の世界に行くだけの能力ですから……え! 危険なんですか?」
ようやく慌てて顔色を青くするメガネ娘。
なるほど……この娘大丈夫だろうかと俺は改めて心配になった。