助けたメガネ娘
窓ガラスを突き破り、巨大な手のひらが室内に飛び込んでくる。
その時俺は二択を迫られた。
完全にゴリラに気を取られた俺は、このメガネ娘から意識がそれた。
初動が遅れ、これから慌てて寝ている人間を助け起こして逃げるのはリスキーだ。
俺が選んだ選択は距離を開けるだった。
「……おい!」
当然狙いは仲間を仕留めた俺だろうと、女の子から距離を取った俺だったがここで巨大ゴリラは予定外の行動に出た。
無理やり突っ込んで来た手の平で掴んだのは、俺ではなく気絶した女の子の方だったのだ。
天井に張り付きぽかんとしてしまった俺だが、いつまでも惚けてはいられない。
「……待てコラ!」
天井を蹴りぬいて外に飛び出した俺は、タワーに上る巨大ゴリラを発見した。
「あの野郎、懐かしいネタを―――」
『餌にでもするつもりでしょうか? 握り潰されれば一巻の終わりです』
「……助けるぞ!」
俺は自分の判断の失敗に歯噛みし、空を駆けた。
ここで助け損ねたら後味が悪いにもほどがある。
巨大ゴリラめがけてまっすぐ飛ぶが、その進路を遮って残りのゴリラが飛び出してきた。
俺はすでに鉄骨を足場にしていない。
空中に見えない足場を作り出し、空を飛んでいるような状態だった。
だというのにゴリラの軍団は俺めがけて飛んでくる。
完全に捨て身の戦法に俺は戦慄した。
どう考えても自滅だが、極めて面倒な妨害だ。
「どけ!」
『警告。雷化の兆候あり。リミットは5秒です』
だが次の瞬間、テラさんの警告が響き、俺の体は崩れて雷となる。
降ってくるゴリラ達の間をすり抜けて、タワーの先端のはるか上空に移動する。
右手に女の子を握り、ドラミングしながら雄たけびを上げる巨大ゴリラは、すぐさま俺に気が付き開いた三本の腕を振り回したが、減速する間も惜しかった。
俺はすかさずマフラーを伸ばし、巨大ゴリラの体に巻き付け、拘束するとゴムのように反動をつけてさらに加速する。
右足の蹴りで狙うのは、女の子を掴む腕だ。
「……返してもらうぞ!」
俺は叫ぶ。
瞬間二基のエレクトロコアがうなりを上げ、雷鳴が轟いた。
蹴りは大樹のように太い腕に直撃し、放り出された女の子を俺は空中を無理やり蹴って方向を変え、抱き上げることに成功した。
巨大ゴリラは腕から煙を吹きながらタワーの下に落下してゆく。
「テラさん! 車は!」
『落下予測地点に移動中です』
俺は地表に動くキャンピングカーに狙いを定め、ちょうどその天井に着地した。
ガンと派手な音を立てるが、分厚い装甲版を持ったキャンピングカーはへこみもせず、そのまま高速で逃げ出したのだった。
「はぁ……なんだったんだあのモンスターは統率が取れ過ぎだ」
『巨大な個体がボスでしょう。群れを形成する習性があるとすれば命を張る事もまた不自然ではありません」
「なら、あの女の子を狙ったのは?」
『発情期では?』
まぁ、そう言うこともあるのかもしれない。よく知らないけど。
俺はようやく一息ついて、抱きかかえた女の子を確認すると。
「むにゃむにゃ……スカー」
「……マジか」
謎のメガネっ子は、未だに幸せそうな寝息を立てていた。