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PS ヒーロー始めました。  作者: くずもち
新たなる旅立ち編
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出発の日

 月日というのは追い詰められると早く過ぎるもので、数日などあっという間の事だった。


 この忙しい時にシャリオお嬢様の無茶ぶりを受けてきた俺がしこたま怒られたり、ツクシが半泣きで会議の結果を知らせてきたり、旅の準備を整えたりと大変だったが、成果は上がっていた。


 今頃シャリオお嬢様は探索を開始しているのだろうか?


 まぁ情報のかく乱くらいはうまくいっていてほしいものだった。


 そして旅立ちの日はやってくる。


 ゴミ山から出発するルートは、秘密基地発掘中に見つかった格納庫である。


 入り口をふさいでいた大量の土砂を撤去した我らが穴掘りマスタートシに感謝をささげるとしよう。


 格納庫はまだ昔の名残を残していて、クレーンやなんだかよくわからない金属パーツがごろごろと転がっている。


 そう言えばシルナークとリッキーはどこにいるだろうと周囲を見回すと、どこかから引っ張ってきたらしいソファーで爆睡している二人を発見した。


「急ぎの仕事だったもんな。寝かしておいてやろう」


 そしてトシとニーニャは昨日まで修羅場だった格納庫の掃除をしていたが、俺の姿を見つけると走ってこっちにやってきた。


「ニーニャにトシにも今回は面倒かけた。いいか? 王都の店は君達の奮闘にかかっている。シルナークとリッキーも存分に手を貸してくれるだろうし、王都や鉱山街の知り合いにも困った時は相談するんだ」


【大丈夫! それより困ったらすぐ呼んで】


「問題ないいつでも助ける」


「もちろん。困った時は頼るとも」


 ずいぶんと頼もしいことを言ってくれる店員達の頭をなでると、頬を紅潮させ力強い頷きが返って来る。


 俺達は親指をグッと立てあうと、それぞれの持ち場に散った。


 元は兵器の格納庫だったらしいその場所には、今は一台のキャンピングカーがぽつんと占拠している。


 俺は新車のようなその車の全貌をようやく眺めて、フシュっと熱い鼻息を噴いた。


「いいのができたじゃないか! ピカピカだな!」


『はい。多少物足りなかったくらいです。中を見てみますか?』


「もちろんだ!」


 ドローン形態で飛んできたテラさんに案内され中を見てみると、中は完全にSFだった。


 設置された簡易的な椅子といくつものディスプレイが並ぶ車内には、この車のデータと周囲の収集されたデータが映し出されていて、周囲の詳細な地図も確認できる。


 驚いているとテラさんはすかさず解説した。


『ドローンを飛ばせばもう少し詳細な地図が製作可能です。あてもなくさ迷うよりは確実な旅が可能でしょう』


「おお、それはいいな」


『更に、時空震を感知するセンサーも搭載しています。平たく言えば異世界からものが来た痕跡が辿れます。今後力を求めるというのならば、異世界から流れてきたものを探す旅となるでしょうから』


「すごいなそれ。噂話を頼りにするより使えそうだ」


『それは確実です』


 センサーについては自信があるのかテラさんの声は心なしか得意げだった。


 しかしこの短期間によくもこれだけ色々詰め込めたものだと思わず感心してしまった。


「やっぱり車の方に大事なものを詰め込んだんだな。でもこれじゃあキャンピングカーっていうよりも装甲車っぽいななんか」


『……それは確かに名称と異なるものが完成した点は不覚です。一応タープとか出ますが?」


「悪あがき臭いな……まぁ正直」


『……車には各種レーダーに転移ポータル。そして武装ですね。生活空間は後ろに連結したトレーラーをお使いください』


「ああ、あっちは主に俺担当だからテラさんより詳しいぞ?」


『それはどうでしょう? 私の方でより快適になるよう工夫しましたので。しかしマスターに細部のギミックが使いこなせるかどうか……』


「えぇ! そんなすごいの!?」


『ええ。すごいです』


 ここまでテラさんが言い切るとなると、俺が知っている以上にトレーラーは快適になっているのかもしれない。


 今から使ってみるのが楽しみだ。


 だが今は本体の車の方をしっかり見ておかねばならない。


 何せこの車が今後の俺の生命線である。


 まずは、王都と行き来する転移ポータル。スイッチを押すと床からせりあがってきて、ブオンと青い光が灯る。


 こいつで王都の店にいつでも行き来ができる。


 そして一番大事なのはこれだ。


 俺は最も目を引く棺桶の様な黒い箱に手を添えて頷いた。


 なにはなくともこいつがなくては始まらない。


 テラさんの方を見るとテラさんは、少しだけ強く光っていた。


『整備は万全です。見てみますか?』


「ああちょっと見てみるよ」


 俺は我慢しきれず箱についた小さなパネルを操作する。


 するとガシッと黒い箱はパズルのように開いて、白い鎧は現れた。


 俺はゴクリと喉を鳴らし、鎮座するそれを眺めて感動に打ち震える。


 形状の変化はあったが、それは間違いなく相棒であるパワードスーツだった。


「よく、ここまで修復出来たな」


『フレームが損傷していたので、苦労しました。予備部品がなければ不可能だったでしょう。しかし前回のデータを鑑みて、改良を施しています』


「ああ……間違いなく。前の機体が生きてるな」


 特にデザインのヒロイックなところなんかは間違いなく生かされている。


 こいつを使って戦う日を想像すると、自然と武者震いが止まらない。


 忘れてはならないのは、今回の旅は、こいつをさらにパワーアップすることが目標だってことだ。


 ああそれは、とても大切なことだった。


 目標も、夢も希望も旅立ちに必要なモノは全部揃っている。


「よしよし……じゃあさっそく出発しようか!」


『了解』


 俺の指令にテラさんが答えると、ゆっくりと格納庫の扉は開いていった。


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