王都の会議
「その後白い戦士は、国外へ逃亡。現在捜索中です」
「報告ご苦労だ。勇者よ」
ツクシの報告に王は頷く。
王都のシンボルであった王城の崩壊は王都に少なくない混乱をもたらしていた。
王族たちは頭を抱え、王と王妃は今回の関係者を集め、会議は何度も行われた。
ヒルデとツクシは関係者として同席し、王の話に耳を傾けていた。
「結局のところ、今回の事故で呼び出されたあの巨大物体も脅威だが、それを凌駕した正体不明の戦士も、十分に脅威だ。今回のことを踏まえると尋常ならざる存在なのは間違いない」
王の言葉に賛同する者は多く、納得する者も多い。
魔法の力を凌駕する戦士がいたことは隠し通せるものではなく、話し合いは謎の白い戦士を危険視する方向に進むのは避けられそうになかった。
本来であれば、反対を訴え、すでに王都での地位を確立しているツクシの意見を前面に押し出し、擁護の流れを作るはずだったがヒルデとツクシはあえて沈黙して流れに任せていた。
ヒルデはツクシと目配せし。
ツクシは力強く頷く。
まったく困ったことに、ツクシはもう外に旅立つ気満々で、この後の演説の内容まで考えていた。
『王都の平和を乱した戦士を近くで見たのは僕だけです! そしてあの戦士は僕でなければどうしようもないと思います! なにとぞこの僕に戦士を追跡する許可をいただきたいのです!』
ツクシは渾身の勇者力を発揮して、自分の意見をゴリ押しする気満々だった。
ヒルデは練習に付き合わされ、ツクシは会議前に魔法を使って戦闘用の大人の姿になって望む力の入れようだ。
だがヒルデでさえ思う。
魔法による変身、通称勇者モードの勇者ツクシは立っているだけでカリスマが可視化されて見えそうなほどだ。
そんな彼女が練習を重ね、王都のために力を尽くしたいと勇者らしく振舞えば雰囲気だけは一級品だ。
ヒルデはめちゃくちゃなようだが案外うまくいってしまうかもしれないとは考えていた。
それに加えて王都内での治安を主に司っているのは実質新撰組である。
市街の見回りや人の出入りをこちらで管理している以上、白い戦士の目撃情報はある程度都合のいいようにでっちあげることはそう難しくはない。
「では、此度の主犯として、この白い戦士の探索、捕縛を命じる」
王の言葉に合わせて、ツクシがぐっと気合を入れた気配が感じられた。
「お……」
「ではその任! このわたくしにお任せいただけませんか!」
しかし一言目を発する前に声が上がった。
すさまじい迫力で椅子を弾き飛ばし立ち上がった赤毛の縦巻きロールの騎士に、会議室の全員が気圧される。
そして今まさに名乗り出ようとしていたツクシもまた、言葉を飲み込んで目を丸くしていた。
メルトリンデ家のシャリオ様は、まさに燃えるような瞳を王に向ける。
王はためらいがちに口を開いた。
「そ、そなたが件の戦士を捕らえると言うのか?」
「はい、そしていいえです。わたくしがあの方を追いましょう。しかし……それは証明するためですわ」
「それは……どういう意味なのだ?」
「皆様方は白い戦士の力を危険視されているようですが、そのようなことはないとわたくしが彼を連れ帰ることで証明したいのです! 外に逃げたというのなら地の果てまでも追いかけ、彼の者を連れ帰って見せましょう!」
「……いや、しかし……それでは王都の市民が納得しない……」
「そもそも! 今回の被害で民の顔色をうかがうのが間違いですわ! 王都の民はその程度で王を疑うほど弱い民ではありません! 王は今まで通りドンと構えていらっしゃればよいのです!」
「う……うむ……」
唸るような返事を返す王は、完全に勢いに押されていた。
そしてそんな唸り声を肯定と取ったシャリオ様は自らの髪を鮮やかに燃え上がらせた。
そのまま会議室の扉の前に歩いていったシャリオ様は豪快に扉を開けて、一度だけ優雅に礼をする。
「では早速出発いたします。ごきげんよう!」
感情の高ぶりによる熱波で会議室の気温はガンと上がり、もちろんシャリオ様を止めることが出来た者はいなかった。
「えー……」
ツクシのどうしてこうなったという声にヒルデは正気を取り戻した。
シャリオ様が自分から追いかけると言い出すとは思わなかった。
ヒルデはどうしようかとツクシに視線を向けると、ツクシは勇者モードからしぼんで涙目だ。
思わず顔を自分の手のひらで覆ったヒルデは、これからどう手を尽くすか頭を痛めた。