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そして俺はゴミ山に戻ってくる

「……」


 意識を取り戻すと、そこはよく知る、鉱山のゴミ山にある小屋の一室だった。


 いつの間に運び込まれたのか、記憶がないとはさすがに情けない。


 体を起こすと、俺の傍らにはボロボロになったパワードスーツとマフラーが一揃え置いてあるのを発見した。


 毎日磨いていた俺にはわかる。パワードスーツの骨格に、大きな損傷があることを。


 それは表面ではなく、もっと根本的な部分で代えの効かない部分だと確信があった。


「……まぁ、しょうがない。修理は……無理か? また何か探しに行こうか」


 ぽつりと呟いた返事を期待していなかった言葉は、どうやら受け取り手がいたらしい。


『それは聞き捨てなりません。マスター。この基地を破棄するのは早計というモノです』


「うお! テラさんか!」


 急に置いてあるパワードスーツがしゃべりだし、ぽこんと光の球体が飛び出した。


『はい。今日はお疲れさまでした。そして此度は申し訳ありませんでした』


 このぼんやり光る玉はふわふわ俺の前にやってくるとどういうわけか謝罪を始めた。


 正直俺は戸惑った。なぜなら謝る事なら自分の方に山盛りの理由があったからだ。


「……なんだその機能。初めて見たんだけど?」


『当然です。私も初めて知りました。精霊とは便利なものですね』


「ああ、なるほど。面白いことができるもんだな精霊」


 乾いた笑いに、ぼんやりした話題が続くが、かまわずテラさんは話を続けた。


『とにかく申し訳ありません。今回の暴走は私の責任が大きいです。不確定な要素が多かったとはいえ、制御装置が自制を失うなどこれ以上ない大失態と言うほかありません。呪いやら魔法やらオカルトなど滅べばいいのに』


「ハッハッハ、テラさんも面白いことを言うなぁ。もう全力でオカルト側に飛び込んでるってのに」


というかもう言ってる内容もメカっぽさからかけ離れてきたテラさんだが、そこは譲れない一線があるようだった。


『否定します。あくまで端末の一つが違法な改造処理を受けましたが、非常時につき特例としているのです。決して私の本体はオカルトではありません』


「そう? こだわりがあるならいいけどな。…………まぁそれより」


 俺は体を起こしつつ、深々とため息を吐き。呼吸を整える。


 聞きたくはない。聞きたくはないが、聞かなければどうしようもない。


「……どうなった? あの後?」


 王都で行った大暴れ。


 正直まだ記憶に欠けが多く、正確に把握出来てはいないが、とても大変なことをいくつもしでかした気がしてならない。


 恐る恐る尋ねた俺に、テラさんはちょっとだけパッと電球の様に明るくなった。


『お喜びくださいマスター。皆すでに治療を終えています。従業員一同もすでに帰還しました』


 それを聞いたとたん。思ったよりもずっとほっとしている自分に気が付いた。


「そっかー……。今回は本当に世話をかけたなぁ。後で謝っておかないと」


『そうですね。しかし加減を間違えないようご注意ください。記録ではマスターを同じく殺しかけたことがある者も多いので、過剰な謝罪はむしろ相手を傷つけます』


「……そう? まぁ、謝罪よりも感謝が先か。ありがとう」


『どういたしまして』


 なんともむず痒いものだが、確かに仲間にするのなら感謝の方がいいかもしれない。


 だが続く王都の被害報告は驚くべきものだった。


「続いて王都についてですが、死傷者は出ていません。負傷者は多数いましたが、回復魔法により無事復調しています』


「嘘だろ。マジか。なんでそんなもんで済んでる……いや王都だからか」


 我ながら尋常な暴れ方ではなかったし、言っても攻めてきたのは宇宙人の侵略者なのだが、王都では日常の範囲内だったということなのかもしれない。


『そのようです。あの町の住人の自衛能力と身体能力には驚かされるばかりです』


「だろうね。じゃなけりゃ、俺も無力感で枕を濡らしたりはしないか」


 そう言えばあの町の住人はほとんど身体強化の魔法が使えるんだった。


 あの町の子供にすら俺は腕相撲で勝てないのだ。


 被害は思ったよりも少ない。


 ならば今回は俺自身についても、もう少しこれからの事についてスピーディーに考える必要があると、頭がようやく回り始めた。


「だがパワードスーツがなくなったのは痛いな。振出しに戻った気分だ……」


 俺がそうこぼすと、帰ってきたテラさんの声は意味ありげだった。


『それはどうでしょう?』


「なに? そう言う話だっただろう? パワードスーツの中身だけは壊れたら修理できないって」


 少なくとも、パワードスーツの修理に使えそうなものは基地にはない。


 それは事実である。


 だがテラさんはどこか得意気に言った。


『それは、昨日までの話です』


「えぇ?」


 昨日と今日に一体何の違いがあるというのだろうか?


 一瞬混乱した俺は、その違いに気が付いてはっとした。


『せっかく世界を隔てて未来の素材が山ほど手に入ったのです。パワードスーツ一台、本当に修理できないと思いますか?』


 その素材についてつながった俺は思わず鳥肌を立てていた。


「……テラさん。実はさっき、手ひどい敗北を味わったばかりなんだ」


『はい。奇遇なことに私もです』


「俺はまだまだ諦める気はない。一緒にやるかテラさん?」


『望むところです。正直勝つのは通常の方法では不可能です』


「だろう? 初めて意見があった気がするよ」


 どうやら俺は、まだまだ上を目指せるようだ。


 それは何よりも嬉しく、俺は安堵していた。


「でもそれならどうやってあのでっかい奴を持ってくるかなぁ。ああでも一応俺って王都で機械の専門家って扱いのはずだから案外すんなりと手に入るか? いや、でも……正体がばれたなら王都にいるのは難しいかもしれないな」


 特に顔が大勢にバレたのが痛い。


 全部宇宙人のせいにして王都に居続けるのも手だが、ヒーローとして活動していた余罪も、判明しそうなのは致命的だ。


『ああ、それならばなんとかなるはずです』


「そう?」


 テラさんの言い回しはなんとなく嫌な予感を覚えたが、文句などいうつもりもない。


 すると落ち着く間もなく、小屋の下からドドドと何かが走ってくる音が聞こえてきた。


 そして頑丈なはずの地下へのドアがなぜか蹴破られ、鎧をつけた女の子が勢いのまま飛びついてきた。


「だいきち! ダイジョブか! すごいぞ基地が! 黙ってるなんてひどいぞ!」


「ぬお!」


 完全にベッドにダイブ体勢のツクシだが、今全身バッキバキだから勘弁してくださいお願いしますと頼む猶予などありはしない。


 がっつり首に組み付かれ、俺は押し倒される。


 抗う術はなく悶絶しかけたが、落ち着きを取り戻して初めて見たツクシの顔はいつも通りの輝かんばかりの笑顔で、ちょっとほっとした。


 そして更に後から人がどんどん増えてゆく。


【てんちょ! まともに戻った! ゴメン! 絶対マー坊のせいだ!】


「ダイキチ! オレ暴走制御できた!」


「ダイキチ! うお! パワードスーツがやっぱりボコボコじゃないか! また徹夜作業か!」


「インナーが……ほぼ全損……だと? あれがいったいどうやったら壊れるんだ?」


「……王都にいつの間に転移装置など作っているんですか貴方は」


「うおーい……一応王都の宇宙船は全部こっちのゴミ山に持ってきたけど。君らいくら手伝うって言ったからって人をこき使いすぎじゃないか?」


 どやどやと何の遠慮もなしに人の家に入ってくる、世話になった面々が増えるたびに俺は思った。


 ああ、とても騒がしいが、少なくとも寂しいことはなさそうだ。


 でも彼らと少しでも長くいるためには、彼らと同格に並び立てなければならない。


 例えば勇者の隣にいるならばヒーローというように。……我ながら安直な考えである。


 ついでに言うなら今更でもあるが、もう少し続けられるというのなら全力で駆け抜けたい。


 しかしそれにしてもバレにバレたものである。そして最後なんて言った?


 俺は今日も異世界に試されていた。


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