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始まりの声

「じゃあ、今度はこっちから行くぞ!」


 ツクシは腕を振りかぶる。


 距離はだいたい十メートルほど。


「?」


 一瞬油断した俺に、衝撃が飛んできた。


「!」


 ガツンと衝撃を感じたと思ったら身体が吹き飛ばされ、上半身がのけぞり傾いた。


 だがその一瞬は、春風ツクシには十分すぎる隙になる。


 そう理解したのは、のけぞった視線の先にツクシが滑り込んで来た瞬間だった。


 知ってはいたが速すぎる。


 飛んできたツクシの蹴りが命中する直前、俺の体はバチリと弾けて視界が切り替わった。


「ぬお! なんだこれ!」


「おっと! そういう感じか!」


 ツクシも驚いていたが、自分でも驚きだ。


 今俺の体電気っぽくなっていなかったか?


 それは、身に着けた仙術を一歩進めたような……自然に溶け込むような未知の感覚に、沸いてきたのは歓喜である。


 そしてツクシが完全に自分を見失ったというのは、大きな収穫だ。


 俺はこれはと気合を入れて、叫んでいた。


「今の使えるな!」


『肯定しますが、原理は不明です』


「そんなもん、パワードスーツにくっついてるのはだいたいそうだ!」


『……』


 若干沈黙に不服そうな空気を感じたが、今は口論している場合じゃない。


 さっきの感覚を反復し、未知の感覚を受け入れる。


 弾けた俺の体は、一瞬でツクシの背後を取った。


「おお! めちゃくちゃ速いぞ!」


 ツクシの感動したような声が妙に心地がいい。


 更に一つひらめいた。


 足場をランダムに生成して直角に曲がる。


 跳ね返りと円運動を組み合わせ、ツクシをかく乱した。


 あのすさまじい速さの剣と拳を、俺はかいくぐっている。


 そうして完全に死角を突いたタイミングで、俺は実体化しマフラーを鋭く伸ばした。


 こいつの強度はすさまじい、捕らえさえすれば実質勝ちだと期待したが、鞭のように高速で振るわれるマフラーは聖剣にからめとられて、逆に引き寄せられた。


「ぬお!」


「よし、捕まえたぞダイキチ!」


 伸縮するマフラーを利用して、飛んできた拳を俺は吸い寄せられるように顔面に食らった。


「ぬお!」


 俺には兜があったはずだ。


 なのに一瞬頭がなくなったのかと思った。


 一発で気持ちよくなりかけたが、何とか踏みとどまった俺は慌てて応戦しようとするが、すでに無数に見える拳が飛んできていた。


 マシンガンに銃撃されたような音が響く。


「……ぐぉ」


 硬さには定評があるはずなのに、拳が心底重く感じた。


 遠のく意識の中、思い出したのは暴走していた時の朧げな記憶だった。


 懐かしい、元の自分の部屋でどこかで見たことがある影が遊んでいた。


 どことなく恐ろしげにも見えた影は最初は悪いものだとばかり思っていたが、そいつらがわめいていたセリフに、妙に親近感がわいたのを覚えている。


 いつかどこかで、強さに対して抱えていた葛藤をあいつらは代弁していたのではないか?


 そんな気がしてならない。


 なぜそう思ったのだったろうか?


 俺はツクシに巻き付いたマフラーを戻し、自分の右拳に巻き付け直すと、ツクシを見た。


「よぉし! これで最後だダイキチ!」


「こっちのセリフだ……テラさん。全部のエレクトロコア、全開で右手に集中」


『了解しました』


 二基のエレクトロコアがうなりを上げ、光始める。


 全身にいきわたるエネルギーが荒々しく暴れだし、発生した無数の雷撃が地面を走り始めた。


 ツクシは聖剣を空に向けて掲げると、空に伸びる柱のように光の刃が現れた。


「ダイキチ……いくぞ?」


「来い。手加減なんてしてくれるなよ?」


 俺はツクシに向かって飛び掛かる。


 渾身の拳はまっすぐ放たれ、雷で出来た竜の頭がツクシに襲い掛かった。


 間違いなく全力を振り絞った拳だった。


 ただただ真っ白で、乱れる視界の中俺は、打ち砕かれた自分の攻撃と、拳をかいくぐり迫るツクシの姿を確かに見た。


 俺の天地がひっくり返る。


「―――!」


 今度こそ意識が暗転する直前、最後の弱々しい影の声が聞こえた。



 寂しいのはいやれす



 ああそうだ。あの声が自分の声だと思ったんだ。


 結局のところなぜ大門 大吉に取ってツクシが特別なのかと言えば、あの日、あの時、あの場で不安だったのは俺も同じだということだ。


 ツクシがいたからこそ、俺は頑張らなければと踏みとどまれた。


 ピンで止めたみたいに弱々しい決意だったけれど、無くては始まらなかった。


 俺は強くなれたのだろうか?


 目の前の運命に愛されているような女の子は勇者になったけれど、俺は何者にもなっていない。


 いつか肩を並べて、故郷の昔話を出来るようになれるのだろうか?


 負けを認めつつ、考える。


 この分だとまだまだ道のりは遠そうだと、俺は意識を失う寸前に小さくため息を吐いた。


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