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VSツクシ

「テラさん……生きてるか?」


 俺はそう呼びかけると、まだノイズ交じりではあったが、返事がちゃんと帰って来た。


『マスター……正気に戻ったようですね。かく言う私も、おかしな状態だったようですが。現在本よりデータを補完中です』


「それは何より。パワードスーツの調子は?」


『インナーの損傷がなぜか激しいです。スーツは動くようですがダメージはかなり蓄積しています。マスター自身も少々無茶が過ぎたようですが?』


「ああ。あちこち痛いが、不思議と気迫は充実してるよ」


『無茶もほどほどにお願いします。恥の上塗りですよ?』


「確かに……でも、ツクシにあんな顔させて終わりってわけにはいかん。まぁなんだ。勢いのままやらせてくれ」


『そうですか。ならば言うことはありません』


 俺は深呼吸した。


 予定外だが、いつか一度はやらなければならないと思っていたことだ。


 俺はツクシの表情を確認すると、ツクシの瞳にはすでに力が戻っていた。


 ツクシの魔法は理想を形にする魔法だ。


 元の子供の姿に戻ったことで何か悪い影響があったんではないかと思ったが、それもないようにみえる。


 そしていつもの光がツクシを包み込み、大人の姿に変化する。


 燦然と輝く、力にあふれた今のツクシこそ、誰もが憧れる勇者の姿だ。


 眩しすぎて目がくらみそうだ。


 だがこうでなくては意味がない。


 それどころか―――。


「……いつもよりヤバいな」


『勇者ツクシのエネルギーは過去最高の反応です。もちろん先ほどの我々より。撤退しますか?』


「……するわけないだろうが」


 テラさんはいきなり撤退をするが、けしてそれがジョークの類いでない事はわかっていた。


 対峙していると、鳥肌が立つほどに圧倒的なプレッシャーを勇者ツクシは放っていたからだ


 敵として向かい合うとここまですごいのかと俺はつばを飲み込んで、喉を鳴らす。


 だが同時に、マスクの下の顔は笑っていた。


 ここから先を俺は全く知らないが、恐ろしくも悪くはない気分だった。


「いくぞ!」


 ツクシがぺろりと舌なめずりして、腰を低く構え。


「―――勝負!」


 俺はまず先手を打った。


 両手からはエネルギー弾を放つ。


 ダダンとエネルギーの凝縮したテニスボールほどの大きさの弾が左右から一発ずつ飛んで行く。


 光弾はツクシの聖剣が抜き放たれると、あっさり斬られて弾け飛んだ。


 だがそうなるのは想定内。


 撃ったのと同じタイミングでステップを加えて距離を取ろうとした俺は、寒気を感じて身を捻る。


 直感は正しく、すぐ横を刃がひらめいたのは一秒にも満たないすぐだった。


「……うっ! おぉ!」


「お! 速いな」


 なんて気軽にツクシはにっこり笑うがそれはこっちのセリフだ。


 パッとエネルギー弾が弾けたと思ったらもう斬りこまれていた。


 まさに目にもとまらぬ速さだが、今の反射神経が強化されている状態でそう感じるのはさすがに勘弁してほしい。


 だが近づいてきたのだというのなら次の手だ。


 迂闊に電気キャラに近づいたのは愚策だったと思い知らせてやる。


 俺は拳を空に掲げる。するとまだ残っていた雷雲から電力が解放され、激しい雷が俺めがけて落ちて来た。


 さすが雷、強力である。そばにいれば、巻き込まれるのは必至。


 激しい音と光はすさまじく、期待したが、ツクシはもうそこにはいない。


 雷よりも速く飛んでかわしたらしいツクシは、くるくると空中で宙返りを決めて、無傷で着地してみせた。


「目がちかちかしたぞ!」


「……そんなちゃちなもんじゃないはずなんだけどな」


 正直、今のも十分強力な攻撃だけに、動揺はしたが、今の雷はただの充電。


 距離を開けたツクシは、中々いい距離感だ。


 俺は両手を前に突き出して、溜めた電力を開放する。


 全身が青白く輝きはじめ、周囲の石がカタカタと音を立てて震えていた。


 ところがターゲットは逃げるどころか期待に胸を膨らませているらしい。


「テラさん! 収束解放!」


『了解』


 その瞬間、ボッと大気が焼け、青白い極太の光線は真っすぐ突き進んだ。


 遮るものを悉く焼き払う光線は、目標に向かって飛んで行く。


 これは避けるしかないだろう。


 俺はこれも避けられると踏んでいた。


 だが何事も動きはじめというのは狙いやすいものだ。


 そこを狙って飛び掛かり、一気に決着を狙っていたが、また驚かされたのは俺の方だった。


「うぉおおおりゃぁああああ!」


 気合の叫びが聞こえ、ツクシは迫る光線に聖剣をかざし、受け止めたのだ。


 聖剣の刃に触れた光線は四方に弾け飛ぶ。


 俺渾身の一撃は、徐々に力を無くし、ツクシの周囲だけは焼け焦げたが、肝心のツクシは髪の毛一本も焦げてはいない。


「……今のを受け止めるか普通」


『普通ではないと思われます』


「そうだな……」


 ツクシは手を軽く振り、フーフーと熱いマグカップをうっかり握ってしまったくらいの態度で喜んでいた。


「アチチ。おービーム出たな!」


「ああ、出たね……まだまだ色々飛び出るぞ?」


「そうか! ―――楽しみだ」


 そう言ったツクシの表情が、いまだかつてないほど好戦的なもので、俺は兜の中の口元をひきつらせた。


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