新装備
だがどうにもオーク達も準備万端という風でもない。
よく見ればまだ隊列は組まれておらず、こうも早い奇襲に対応はできていないらしい。
俺はギラリとヘルメットの裏の瞳を輝かせた。
「……いや! 向こうも驚いてる! 一気に行くぞ!」
とりあえず先頭にいる丸顔オークから!
俺は拳を振りかぶる。
拳はまっすぐにオークの腹に突き刺さり、景気よくボーリングのピンみたいに吹き飛ばした。
軽々と飛んだ巨体のオークは、後ろに控えていた数十の武装オーク達を巻き添えにして、回転しながら飛んでゆく。
そのまま建物の壁を破壊し、瓦礫にめり込むオークが落下すると周囲は静まり返っていた。
「おおお……」
『来ます』
「「「「プギイイイ!!!」」」」
感動している暇もない。
衝撃波のように俺にたたきつけられるオークの鳴き声で、俺も再び動き出す。
「ちゃんと戦えてる! いきなり全開でいくぞ!」
『全開はやめておきましょう。先ほどの威力を見るに、まずは30パーセントほどで十分かと』
「……それでよろしくお願いします!」
殺到するオーク達を前に、俺はとっておきの武器を首から取り、力いっぱい振り回した。
ヒュンと短い風切り音がして、真っ赤なマフラーが鞭のように周囲のオークを打ち据えるとオーク達の鎧はべっこりとへこみ、面白いようにひっくり返った。
思った以上の威力に俺は自分の手にしたマフラーを見た。
「すげぇな。シルナークの言う通りだ。小学生の時に水を含んだタオルでパチンとかはしたことあったけどなぁ」
まるで鞭のようであり、実際はそれよりもさらに高性能にも見る。
少なくとも伸縮性も丈夫さも俺の知る布ではありえない。
強度は金属を超え、伸び縮みはゴムを遥かに凌駕している。その上ある程度俺の意のままに動いている節まである。
『シルナーク様のデータによると、しみ込んでいる竜の血による呪いと呼ばれる現象によりマフラーが魔力を強制的に吸い上げ、マスターの意志に反応しているようです』
「おお! ようやく俺の魔力も日の目を見る時が来たか! マフラー操るって死ぬほど地味だけど……」
『案外地味なものほど効果的なことはよくある話です。まずはオークで試してみては?』
「だな! よっしゃこい!」
多対一となると、単純な接近戦より中距離の攻撃手段はありがたい。
最新兵器なのに基本的に殴る蹴るしか攻撃手段がない事には不満があったからだ。
それにこの赤いマフラー攻撃は単純に強力だった。
「はぁああ!」
マフラーを振るうたびに、ドシンと驚くほど重い音が響く。
少しコツがいるが、相手に警戒させるのには十分。
そして怯ませたところで急接近。
蹴りがオークの鎧に突き刺さり、銅鑼のような音を立てて飛んでゆく。
「フッ。兵士で培った、肉体強化持ち直伝、筋肉アーツが役に立つ日がこようとはな」
『なんですかその、非常に暑苦しい印象のネーミングは?』
「仕方ないだろ。筋肉こそ正義と信じてる暑苦しい人達直伝なんだから」
そう、力がないなら生き残るために何でもやれと無理難題を押し付けられた日々。
あの時の悪夢を振り払い、俺はそれでも力強く立ち上がった。
「ああ。あいつらは、肉体強化なんて持ってない俺をしごき倒してくれたひでぇ奴らだったが、訓練は雑念の入る余地がないくらいガチだった。あの訓練して泥のように眠る日々が実を結んでくれて俺はとてもうれしい」
いや本当に。
効率的に相手を撲殺するクレイジーな殺法は、パワードスーツと相性がいいらしい。
気を失って倒れているオーク達が何よりの証拠だ。
通用するなら、もはや突っ込むのみ。
建物の中は入り組んでいて、まるで迷路の様だった。
「どこだ! お嬢様!」
『このまままっすぐ進んだ前方に塔があります。その頂上に巨大な熱反応が』
「よし! そこで決定だ! どけどけ!」
俺はテラさんの指示に従い、まっすぐオーク達を蹴散らして、塔を目指した。




