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シャリオの炎

「さて、始めましょうか―――少しだけ予定とは違いますが。わたくし貴方と向かい合って話す日を楽しみにしていましたのよ?」


「……」


 シャリオは槍を構えて走りだす。


 そして二歩目から爆炎を推進力にしてロケットのように突進した。


 黒い巨腕は槍の切っ先を直接握って防ぐが、その切っ先は深々と突き刺さっていた。


「そこ!」


 シャリオは魔王残党との戦いの経験で、魔法を無効化する膜は内部から焼けると知っていた。


 それが変化した物らしい異形の腕が邪魔だと考えたシャリオは、槍の切っ先に魔力を全霊で込めて内部から炸裂させる。


 闘争本能のままに叩きつけた全力の炎はしかし一瞬、腕の中から炎が漏れたが、火花を散らしてすぐに霧散した。


「……この程度ではダメなようね」


 悔し気に歯噛みしたシャリオは、次の攻撃に移ろうとしたが、肝心の相手はシャリオを意にも介さずに、槍ごと跳ね飛ばした。


 シャリオは身軽に着地して見せたが、その顔からスッと表情が抜け落ちた。


「……そうですか。あくまでわたくしは眼中にないと」


 まっすぐ視線は、ツクシ一人に向けられている。


 あの戦士がツクシに並々ならぬ関心を抱いていることなどシャリオにもわかっていた。


 だがわかっていたからと言って、納得できるかと言えば別問題で。


 この、今の状況に、シャリオは心が泡立つのを感じていた。


「馬鹿にするんじゃ……ありませんわ!」


 こめかみに血管が脈打ち、シャリオは思い切り槍を地面に突き立てると魔法の力を地下に集中させ圧縮した。


 一瞬で極限まで圧縮された力は、それが耐えられなくなった瞬間に解き放たれる。


 するとどうだろう。


 シャリオと黒い戦士の足元は二人諸共噴火するように上空に突き上げられた。


「――――!」


 恐ろしいほどの圧力がかかる中を、シャリオは爆炎を駆使して突き進む。


 そして黒い戦士にぶつかったシャリオは接触の瞬間、槍すら投げ捨て、彼の兜を両手で掴み、強制的に振り向かせた。


「そうです。私を見なさい――――」


 真っ逆さまに落下しながらシャリオは暴走した黒い戦士に向かって呟いた。


 先の攻撃で黒くて分厚い防御の膜はボロボロで付け入る隙はある。魔法だって強ければ届くはずだ。


 まあこの際、理屈はどうでもいいとシャリオは思った。


 魔法は精神に直結する。


 シャリオは闘争本能の熱を魔法に変えていたが、それに勝る灼熱をまだ胸に隠し持っていた。


 普段は絶対に人には見せないが、今この場だけさらけ出すのもいいだろう。


「まったく。顔も知らない貴方をわたくしだけが追いかけるのは不公平な話です」


 シャリオは更に空中で無理やり頭突きをするように頭をぶつけ、体を密着させた。


 わずかに残っていた膜がシャリオの鎧を溶かし肌を冒す。


 遅れて黒い腕がようやくシャリオに向かうが、間に合うわけもない。


 意識をツクシに向けすぎた結果、防御がおざなりになれば付け入る隙などいくらでもある。


 シャリオは燃えるような瞳で、戦士を覗き込んだ。


「今日のところは見せ場を譲って差し上げますが……そのうちいやでもわたくしから目を離せなくして差し上げますわ――――わたくしのヒーロー」


「―――」


 優雅に気品にあふれ、そして自信をみなぎらせた不敵な笑みは戦士の瞳に移りこみ、その笑みは炎そのものとなる。


 空はシャリオの炎に包まれた。


 王都を覆うほどの炎の雲から、シャリオは落下する。


 途中水の塊に受け止められるとシャリオはわずかに残った意識で親指を立て気を失った。


 そして同じく、煙で尾を引きながら落ちて来た黒い戦士は無防備に地面に墜落した。


 身に纏っていた黒い細胞はすべて失い、元のパワードスーツの姿に戻ってはいたがそれでも黒い戦士は起き上がる。


「―――!」


 ただ一人の黒い戦士は、マフラーをなびかせてツクシの前に立っていた。



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