店員達の総力戦
髑髏顔の巨人は真っすぐに突っ込んでくる。
「グォオオオオ!」
咄嗟に前に出たのは、ニーニャとトシだ。
ダイキチは今、魔王の細胞をベースにした外皮に飲み込まれ、完全に化け物と化していた。
その姿は、かつて鉱山の町で戦った黄金色の髑髏と酷似している。
姿だけではなくその性質まで模しているのだとしたら、迂闊に触れるべきではない。
そして二人は一瞬だけ視線を合わせ、ニーニャは予定外だが作戦通りに行動を開始した。
勇者ツクシならパワードスーツを破壊できる。
そのために注意をそらすついでに、出て来た外皮を破壊する。
工程は一つ増えたが、やることは変わらない。
トシは、そう言うことはまるで考えてはいなかったが勘でニーニャと連携を取る。
ニーニャはバッと広げた翼で飛び上がり、纏われたマー坊がニーニャに助言する。
「あいつが速さを捨てでデカブツになったのは都合がいい。そんで外皮は殆ど俺様の細胞だってのはやりようがあるぜ!」
【うん……頼りにしている】
だが素直に頷かれて、マー坊は驚いたが、やたら嬉しそうにやる気を出した。
「ハッハッハ! こいつは今日は槍でも降らせなきゃなだ! 行くぜ!」
ニーニャは、髑髏の巨人の頭の上から自らの体組織から作り上げた槍を無数に放つ。
槍は次々に髑髏の巨人に刺さっていたが、物ともせずに髑髏の巨人は暴れるのをやめなかった。
だが、それで終わりではない。
コードのようにニーニャと髑髏の巨人はつながれていて、髑髏の巨人は苦しみだした。
「ハッハッハ! 直接つながっちまえば、支配権を取るなんざ訳ねぇ!」
荒々しく叫ぶニーニャに意外そうな視線が集まるが、髑髏の巨人の体が波打ち、そこにダイキチのパワードスーツの姿が見えた瞬間、今度はトシが四つん這いになった。
トシには触れることができない相手に攻撃する方法に一つしか心当たりがなく、取れるべき選択肢も多くはない。
目を血走らせ、トシの角が光る。
「――――!」
そして大きく口を開けると、収束したエネルギーが一気に放たれた。
暴走状態で使っていた必殺技を、トシはこの土壇場で完全に再現していた。
一直線に突き進むエネルギーの塊は、髑髏の巨人の膜の薄い部分に直撃した。
【……っく!】
「――――」
ニーニャは全身に血管を浮かび上がらせ、支配に集中しトシは死力を尽くしてすべてのエネルギーを吐き出す。
そして渾身の攻撃が収まると、髑髏の巨人の大半は吹き飛んでいて、ダイキチのパワードスーツは大きく露出していた。
ふらりとニーニャは落下し。
トシも無茶がたたって煙を吹きながら倒れる。
獣じみた雄叫びを上げるダイキチは、倒れた二人にかまわずに飛び出していた。
ますます化け物じみた様子だったが、その動きに迷いなど感じなかった。
ダイキチが目指すのは、ただ一人である。
それに気が付いたシャリオは叫んでいた。
「勇者様を狙っているってどういうことです!」
ダイキチは残った膜を右腕に集めて巨腕を作り出し、ツクシに襲い掛かった。
ツクシは聖剣を構える。
魔力が聖剣に集まり、いつも通りならどんな敵であろうともその聖剣の刃で切り裂くはずだった。
「……っ!」
しかしツクシの刃は空を切った。
それどころか、かわすタイミングすら遅れて、ダイキチの平手が横なぎに飛んできた。
「何やってんだ!」
それをかばったマリーはすんでのところでツクシに飛びつき、その肩を平手が触れる。
「ぐっ……!」
何とかツクシを助けることには成功したが、触れた部分がざっくりとえぐられていた。
「軽く触れただけでこれかよ……やべぇなありゃ」
しかしマリーはすぐに体勢を立て直し、自分の肩に魔法をかけると、すさまじい勢いで傷がふさがってゆく。
数秒で傷後すらわからなくなったそれは、マリーの得意とする回復魔法だった。
「おい、大丈夫かよ?」
「う、うん。ありがとな」
かばわれた形になったツクシは、自分自身が一番驚いていた。
「どうしたあんた? こんなもんじゃないだろう?」
マリーにそう尋ねられてもツクシが何も答えられないでいると、代わって口を出したのがシャリオだった。
「あなた……剣に迷いがあるのね。彼に攻撃できない理由でもあるのかしら?」
「……」
「そう……でもここは戦場です。どうしたいかくらい、決めて来てもらわなければ困るわ」
「……うん」
「いいでしょう。貴女はそこで見ていなさい。わたくしはもう決めましたから」
「!」
そう言ってシャリオはツクシの前に立つ。
その行動にマリーはクククと楽しそうに笑って、回復が終わった腕を振りまわす。
「おお! やる気だな! どら、私も手伝ってやろうか!」
そして、シャリオよりも前に出ようとするのを、手で制止させられた。
「……なんだ?」
マリーがいぶかしむとシャリオはいつになく真剣な表情を浮かべていた。
「お待ちなさいなマリー。貴女はまだ堪えてなさい。貴女の回復魔法は温存すべきよ」
「はぁ? 本気かお前!?」
「当然です。お願いよ、マリー。この戦いでは誰も死なせたくないの」
更にはらしくもなくお願いなんて口にするシャリオに、マリーはしばし絶句していたが、言いたいことをすべて飲み込んで、頷いた。
「……! わかった。今日のところはお前の顔を立ててやる」
「感謝するわ。マリー」
「気持ちの悪いことを言うな……死ぬなよ」
「当然ですわ」
凛とした表情でシャリオは槍を構え、炎を纏った。