トシは駆ける
トシは一人、王都を風のように駆け抜けていた。
ダイキチのいる場所はバッチリ臭いでわかる。
そうでなくても、今戦いが起こっている場所にダイキチはいるだろうとトシは考えていた。
思い切り石畳を粉砕して飛び上がり、少し高い位置から周囲を見回す。
すると、大爆発が巻き起こり、生暖かい水蒸気と熱風が肌をなで、雨が降り注ぐ。
「……あそこだ!」
ホラやっぱりと着地して、トシは爆発に向かって突撃した。
中心へ近づくにつれて、すさまじい熱気が正面から吹き付けてきたが、トシは物ともしない。
ダイキチからもらった新装備。両手に持った、身長よりも遥かに大きな二本の巨大金棒を力強く握り、近づく戦場の気配に身震いした。
瓦礫の山を踏み超えて、たどり着いた先には燃え盛る炎と逆巻く水流。
そして、荒れ狂う雷が戦っている。
炎と水を相手取り、負けていない雷を見たトシはゾクゾクと鳥肌が立ち、喜んでいる自分を発見した。
ダイキチが、自分の群れのリーダーがあんなに強くなっている。
この充足感は、トシにとってとても大切な感情らしいと最近になって気が付いた。
トシにとって、ダイキチが向かい入れた群れは、初めて自分を迎え入れてちゃんと群れとして機能している貴重な群れだった。
記憶はないが、元居た場所でも自分はダメだったのだろうとぼんやり思う。
ここに来てからも、オーガの群れに入ったが、やはりダメだった。
あのままダイキチに出会わなければ、きっとずっと同じことを繰り返していただろう。
でも今はもうそうはならない。
ダイキチはそうならない方法を教えてくれる、頼りになる強いリーダーだからだ。
だが今、ダイキチの周りに鼻がむずがゆくなるような不快な匂いが絡みついている。
そしてトシの角は、チリリと敏感に敵意のにじみ出す元を感じ取った。
トシは群れの一員としてフシュっと鼻息を荒く吹き出し、叫んだ。
「いますぐ助ける!」
それは大切な群れを守るために。
トシは金棒二本を振り上げ、危険な魔法が飛び交う戦いのど真ん中に突っ込んだ。
「な! なんです!」
「おい! 止まれ!」
金棒とそれを受け止めるダイキチの腕がぶつかり合い、制止の声を衝撃波でかき消す。
全身に血管を浮き出させたトシは続けざまに金棒を振り上げて、乱打した。
ダイキチは簡単には壊れない。
暴走の時の記憶がぼんやりと残っているせいか、トシのこのあたりの信頼は絶大で、ゆえに手加減などない。
トシの攻撃はダイキチに巧みに逸らされたが、瓦礫が粉砕され、金棒は地面を陥没させた。
派手な土柱は上がったが当然ダイキチはまだまだ元気だ。
「強いな……お前?」
「大丈夫! 暴れれば疲れる! 疲れたら元に戻る!」
自分のことが分からないらしいダイキチにトシはいっそう気合を入れた。
わけがわからなくなった時、ダイキチが自分にしてくれたことを実践すればたぶん大丈夫!
トシは自分なりの勝算をもって、再び金棒に力を入れた。