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ヒルデ副長の考え

 カチーンとその瞬間、間違いなく店内の空気は凍り付いていた。 


 リッキーとシルナークは玄関から入って来た、王都の治安を守っていると噂の隊長と副隊長を前にしてお縄を頂戴する未来が見えた。


 今まで無許可でのヒーロー活動のせいか、あのダイキチですらこの二人にだけはかたくなに正体を隠し続けていたというのに、この状況は非常にまずい。


 散乱した武器と、真の姿を現しているニーニャ。


 さらには浮遊する端末はテラさんの正体を外の何かと紐づけるに十分なほど異質だった。


 い、いちばん見つかっちゃいけない関係の人来ちゃった!


 少なくともリッキーとシルナークの表情には焦りが浮かんでいた。


(中身はバレてないんじゃなかったのか!? なぜこの非常時にここに来る!)


(知らないよ! なんかバレたんでしょ!)


(ああもうほんとにあの男は詰めが甘いな!)


 隊長の方はなんだか、いつもより元気がないというよりも担がれていたが、現状を考えるとダイキチが何かしたとしか思えない。


 そして副長のヒルデは苦々しくため息を吐いた。


「……まぁやはりここが拠点でしたか」


「……はい」


「……そうです」


「あなた方はただの従業員ではなく共犯ですね?」


 するっと使われた共犯という言葉に、リッキーとシルナークは同時に後ずさり、ひとまず逃走経路を確認した。


 ダッシュで逃げて、転送ゲートに飛びこめばひょっとするといける。


 そして次に、店内に浮かんでいる飛行する端末を見た。


 あのテラさんは別におかしくなってはいないらしい。バックアップがどうのとか言っていたが、リッキーやシルナークは適当に聞き流していた。


 逃走に協力してくれるかは五分五分かやや劣勢か。しかし転移さえしてしまえば、逃げ切ることも不可能ではあるまい。


 悲痛な覚悟を胸に秘めていた二人だったが、ヒルデは警戒している店の人間に警戒を解くように声をかけてきた。


「いえ……共犯というのは言葉の綾です。私たちは貴方たちを捕らえに来たわけではありません」


「「へ?」」


「ええ。ここにはダイキチさんがああなった原因と、元に戻すための手がかりを求めてきました。どうか協力してください」


 怒るどころか頭を下げるヒルデに、店員一同はざわつく。


 そして戸惑いと共にリッキーは尋ねた。


「いや、頭を上げてください! でも、しかし、いいんですか? 暴走してるって聞いたんですけど……問答無用で撃滅ではなく、元に戻すんですか?」


 情け容赦ない例を出すリッキーに、店中が騒然とするが、ヒルデは苦笑いを浮かべていた。


「しませんよ。そんなこと。ですが、被害が大きくなれば、面倒なことになります。早急に対処しなければなりません」


「いいのかそれで? 正直に言うが、アレはでたらめに強いぞ? 暴走しているというのなら貴女の立場から言えばどうにかして倒した方がいいのでは?」


 思ったよりも優しい沙汰にシルナークが動揺してそう言うと、ヒルデはいいえと否定する。


「なんであなた方の方が倒す方を進めるんです……。現状でダイキチさんが戦ったのは謎の敵と、勇者様のみです。正気ではないようですが、無差別に破壊活動をしているわけではありません。何とかできるのなら正気の戻すことを考えたい、私はそう考えています」


 きっぱりと断言するヒルダに真っ先に反応したのは担がれたツクシだった。


「……そうなのか?」


 ツクシの声色は戸惑っているようだった。


 そしてツクシに尋ねられると、ヒルデは困った顔をして、だがしっかりと頷いて答えた。


「はい。多少強引にでも収めて見せます。私達はダイキチさんと勇者様にそれだけの恩がありますから」


「恩?」


「そうですよ。王都の国民は貴方たちに恩がある。私達は結果的に関係のないあなた達に、自分たちの手に負えない負債を押し付けたのです。本来それは恥ずべきことだ」


「……恥ずかしがらなくてもいいぞ?」


 そう言うことは誰にだってあるとでも言いたげなツクシに、ヒルデはそれでも断固として受け入れはしなかった。


「事実としてあなた方は無理な要求を受け入れ、私たちを救ったのです。本来であればその恩に報いた上で、本来の世界に戻すべきですらある。それなのに私達は恥知らずにも、まだあなた達を戦わせてすらいる」


「戦争だったから仕方なかったんだろう? ……追い詰められてたって言ってたじゃないか」


「それは私達の都合ですよ。貴女達はそうではない。私は戦争は平和を勝ち取るためのものであると考えます。そして勝ち取ったものすら、二人が享受できないのはおかしいのです。どこまでも……間違っているのは我々の方だ」


「……そんなこと考えてたのか」


 どこかツクシはぽかんとしていた。


 異世界に呼ばれるということは戦うものだとなんとなく思っていたし、ヒルデからこんな話を聞いたことなんてなかったからだ。


 どこまでも自分の中だけで理屈をつけるのが好きな言葉の足りない副長にツクシはついつい眉を潜める。


「すみません。ここに来て確信しました。ダイキチさんは我々と別れてからも力を求め続けていたのでしょう。今回の事態は、私が招いたようなものです」


 そしてまだ自責の念を感じているらしいとわかったら、ツクシはいつまでも担がれているわけにもいかなくなった。


 ツクシは自分の体を持ち上げて、ヒルデの肩から飛び降りる。


 そしていつもの元気を少しだけ取り戻して、ヒルデの体を叩いた。


「……違うぞ、副長。僕らはちゃんと僕らが決めて戦ったんだ。誰かのせいにするなんてそれこそ間違ってるぞ」


「……」


「でも、そうだな。今のヒルデみたいに、ちゃんとダイキチから僕のことをどう思っているのかってちゃんと聞いたことなかった」


 とりあえずツクシは整理しきれない気持ちを棚に上げておくことにしたらしい。


 ただ話に今一ついていけないリッキーとシルナークはだダイキチの上司にしては割とまともっぽいなとか、ダイキチがああだから、てっきり輪をかけた戦闘狂だとばかりとか。


 とても失礼なことを考えていた。


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