黒い戦士
「おいお前。状況を説明しろ。これはお前がやったのか?」
シャリオがいまいち信用ならないと判断したマリーは、今が黒い戦士に向かって説明を求めたが、すぐに返事は返ってこない。
視線が揺れ、マリーに定まると、黒い戦士はようやく口を開く。
「……強いなお前」
「あぁ? 何言ってんだ?」
最初言われた意味が分からなかったマリーは首をかしげるが、いきなり空から雷が黒い戦士に落下し、黒い戦士は雷鳴に負けないほど絶叫する。
「俺と……戦え!」
とたん無数の雷が空から無差別に降り注ぐ。
マリーは見たこともない雷に飛び退きながら、水の壁で攻撃をそらして、黒い戦士を睨んだ。
「うお! なんだこいつは魔法か!」
誰も使ったことがない未知の魔法としか思えなかったが、魔力の方は感じない。
激怒しながらもマリーは、分析し、何か魔法とは別の由来の攻撃だと分析した。
しかし警戒するマリーの横で、シャリオは鼻息も荒く言った。
「やはり今回もあの方が……さすがですわね!」
「……しかし、あいつ様子がおかしいぜ?」
マリーはうんざりと呟くがシャリオはいいことを言ったと彼女の肩を叩いた。
「そこに気が付くとは……マリーの目も節穴ではありませんわね。そう、確実に違うところ……それはいつもより渋い黒い鎧!」
「……お前の目は節穴なんじゃねぇかな?」
「なんですって! わかっていますよ! 鎧の形状もいつもと少し違いますし、インナーだって新デザインです!」
「なんでインナーまで分かった?」
このシャリオ浮かれすぎである。
ここまでポンコツではなかったはずだがとマリーは頭を抱えたが、いよいよ我慢できなくなって叫んだ。
「って! そう言うことじゃねぇから! 明らかにパワーアップしてるし、正気じゃねぇだろうっつー話だ! 前はあんな馬鹿でけぇもん叩き落すような非常識さはなかっただろうが!」
「ああそっちですか。まぁいいではないですか。元々強い方ですよ彼は。それに力はあるに越したことはありません」
真顔の返しに怯んだのはマリーである。
「そ、そうか? やけに余裕だな」
「余裕? ないですよそんなもの。思わぬチャンスに少々興奮しているだけです」
「チャンス?」
マリーはてっきり正気を失っているのかと思えば、いつもの不敵な雰囲気に戻っているシャリオに面食らう。
シャリオは全身から炎を燃やし、槍を構えた。
「そう、チャンスですわ。わたくし、あの方には借りが沢山ありますの。ここはアピールするチャン……ではなく。まとめて返済するいい機会です」
「……ダイジョブかお前?」
やっぱりちょっとだけ浮かれているようだが戦えないことはなさそうだ。
「当然大丈夫です! わたくしは近年まれにみるほど燃えていますわ!」
「だから不安なんだけどな! どうやって借りを返す?」
「決まっていますでしょう? まずは取り押さえますわよ。あの方の防御力はドラゴンのブレスすら耐えます。限界火力に挑戦してみましょうか?」
「無茶苦茶言うなお前」
「そう? 怪我をしてもマリーの魔法なら治療が可能でしょう? 頼りにしていますわ」
「信頼してるのかなんなのか……あいつにとっちゃいい迷惑なんだろうけどな!」
黒い戦士がああなった原因はまるで分らないが、とりあえず無力化するのは決定した。
未だ妙な光を発している黒い戦士は、今にも襲い掛かってきそうだった。
シャリオとマリーは炎と水の塊となって魔法を展開する。
彼女達の最初の魔法は、王都全域を揺らした。