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光あるところには影ができる

「勇者様!」


 ヒルデは小脇にツクシを抱え、間一髪救い出した。


 そしてヒルデは防御のために放った氷壁の向こうに立つダイキチに厳しい表情を向ける。


「……ダイキチさんですか。なんですかその姿は?」


「……」


 ダイキチは答えない。


 彼はしばしヒルデの方をジッと見ていたが、やがて視線を外して地面に向かって何かを探し始める。


 しばらくしてダイキチは瓦礫の中から真っ二つになった兜を探し当て、それを頭に当ててくっつけていた。


 何度か失敗しながら、ようやく兜は綺麗に合わさり、割れ目に光が走って溶接した。


 兜が綺麗にくっつくと、ダイキチの兜はその形を変えてゆく。


 より鋭さを増した兜の瞳には赤い光が灯り、禍々しい雷が迸っていた。


 ようやくハッとしたツクシは、抱えられたままヒルデに叫んだ。


「あれは! えっと! だいきちは、ちょっとおかしくなってるだけなんだ!」


「……わかっています」


「だから戦っちゃだめだ!」


「……」


 ツクシらしくない必死な言葉に、ヒルデは穏やかな笑みを浮かべて、ツクシを落ち着かせる。


 だが即答はできなかった。


 ヒルデの内心は穏やかではない。


 ダイキチの名を呼びはした。しかしこうして対峙しているとヒルデには同一人物だと結びつかなかった。


 何がどうなれば、魔法を使えない人間がこんな状態になるのか全くヒルデにはわからない。


 だがダイキチという人間だからこそ、こうなっているのは理解できた。


 かつて勇者の旅は時期としてはそう長くはなかったが、常軌を逸する危険な旅だった。


 勇者ツクシがいなければ確実に失敗していた旅だったろう。


 そんな旅で召喚された異世界人たちの功績はとても大きなものだったとヒルデは評価している。


 勇者ツクシはもちろんだが、一緒に巻き込まれただけの青年もまたそうだった。


 何の力もない異世界からやって来た非力な青年は、魔法使いですら命を落とす死地を、最後まで生き延びた。


 守られていたからと言って簡単には出来ないことだ。


 そんな死地に置いて、常に希望を失わず、生き残るために非力ながらすべての力を振り絞り続ける彼の姿は、尊敬に値するとヒルデは思っていた。


 共に旅した青年は弱いとは思われても、私達に邪魔だとは思わせなかったのだ。


 そして大門 大吉がそうできた根底に、力に対する強い執着があったこともヒルデは理解していた。


 そういう危うさはある意味では当然だ。春風 ツクシという常識を超えた勇者の側にいれば、誰もが特別な感情を抱くだろう。


 ましてダイキチと同じ境遇なら、張り合いたくもなる。


 でもそれは―――あまりにも無謀が過ぎる。


 その結論を頭に思い浮かべ、ヒルデは思考を打ち切った。


 周囲には彼女の発動した魔法によって、白い霧が発生し始めている。


 ヒルデは力を求めた青年をしっかりとその目に映して、ため息をこぼした。


「その姿が君の望みですか。まだ力をあきらめきれていなかったんですね」


 空気が輝き、ヒルデとツクシの姿を包み込む。


 ダイキチは雷撃を放つが、魔法で像をゆがませたヒルデには当たらない。


「愚かですよ。ダイキチさん」


 きっとその望みは、彼の人生において致命的な亀裂を生みかねない。


 ヒルデは瞳を一度閉じ、一瞬だけ表情をゆがめて完全に姿を消した。


 ダイキチの体は凍りついていたが、すぐに氷を粉砕する音が聞こえる。


 白い霧の中では、獣のような雄叫びが響き渡っていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 勇者以外の力を求めた奴等が愚かと言う権利はないなぁ
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