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ロボの正体

「ついぼうっとしてしまった! ツクシ史上最大の不覚だな!」


 墜落して今は鉄くずと化した宇宙戦艦を春風 ツクシは駆け上がっていた。


 ずいぶん派手に宇宙戦艦は落っこちてきて王城はめちゃくちゃだが、そもそも王様が宇宙戦艦を呼び出したんだから身から出たさびだ。仕方がない。


 これをやったのはあのロボだとツクシには確信があった。


 みんなからロボが怒られそうだったら、さっきのお礼に助けてあげよう。


 ツクシはそんなことを考えながら、飛んで行ったロボを探していた。


 殆ど周囲は瓦礫と化し、視界も煙や砂ぼこりで最悪な宇宙戦艦の上をツクシが進んでいると、なぜかそこだけ激しく何かが弾けるような音がしている場所を見つけた。


 どう見ても怪しかったが、ツクシは直感的にすぐさま怪しい場所に駆けていく。


「ロボ! そこにいるのか!」


 声をかけるが返事はなかった。


 近づくにつれて肌にピリピリと痛みが走り、目で見ると黒く見える妙な電気を纏った人型は、ツクシに反応してゆっくりと振り向いた。


「―――」


「あっはっは! なんか黒くなってるぞロボ! どうした!」


 ツクシはその姿を見つけて、大喜びで歩み寄る。


 手を振りながら呼びかけると、ロボはおもむろに口をきいた。


「……ツクシか」


「ロボは僕の名前を知ってたか!」


 なんだかちょっと感動するツクシだったがその前に、まずは今回の功労者を勇者としてねぎらうことにした。


「今回は大活躍だったな! どうするんだ? 王様に頼んで沢山お礼をもらおうか!」


 王城よりもでっかいでっかい侵略者をやっつけたんだから、それくらい当然だと思う。


 王様も頼めばこのロボを手厚く歓迎してくれるに違いない。


 ひょっとすると、ロボとも一緒にいられるかもしれないと、ツクシはニコニコと笑いながら楽しい想像を膨らませる。


 だがロボは喜ぶわけでもなく、ツクシの顔を覗き込み、また話し始める。


「どうする……どうするんだったか……そうだ。とにかくツクシ……俺と戦え」


「はへ?」


 訳が分かっていなくとも身体の方は勝手に反応していた。


 恐ろしく速い拳がツクシに襲い掛かり、ツクシはそれを避ける。


 攻撃されたことで戦闘に意識が切り替わった。


 ツクシが一瞬前までいた場所は、硬いはずの装甲に大穴が開いていた。


「……どういうつもりだロボ」


「どうもこうもない。強さを……証明しなくちゃいけない」


 バチバチとヘルメットについた目の部分はショートして、いつもは点いているピカピカの瞳がなくなっている。


 だが、背筋が寒くなるような圧力はビリビリ感じて、まるでモンスターと向き合った時みたいだった。


 ツクシはクリっとした目を見開き、にこりと笑う。


「何言ってるかわかんないけど、ぶっ飛ばさないと危ないな!」


 ツクシはとりあえず戦う気満々のロボを敵と定めて聖剣を抜いた。


 魔力を聖剣に流し、刃が強く光始める。


 輝きが最高潮に達したタイミングで、ツクシは一息に斬りかかった。


 しかし刃は空を切る。


「!」


 聖剣をかわしたロボは、ビックリするほど速かった。


 それこそ雷みたいな速さは目がくらみそうである。


 だけどそれでもツクシは反応して見せた。


 無理やりツクシは体をねじり、ヒュゥンと聖剣の刃は背後を取ったロボの兜を捉えた。


 ロボは飛びのいたが、ツクシは手ごたえありと鼻を鳴らす。


「よし。ちょっと頭を冷やせロボ! 僕だって中に人がいるのは気づいてるぞ!」


 言っちゃいけないかと思っていたが、殴りかかられたのならしかたがない。


 顔を出すのは中の人にとってはすごい衝撃だろうと兜を割ったわけだが、ぱっかりと左右に割れ落ちた兜の中から出て来た顔を見て、春風ツクシは完全に固まってしまった。


「へ? あれ?……だいきち?」


「……」


 その顔を見た瞬間、ツクシはワタワタと慌てだす。


 頭の中が完全に混乱して、両手を意味もなく動かし、ツクシはようやく言葉をひねり出した。


「だ、だいきちが中の人だったのか! ゴ、ゴメン! 悪気はなかったんだ! 見なかったことにするぞ!」


 ちょっと我ながらずれていると思いつつ、ツクシは謝った。


 だけど、直接見ただいきちの顔は今まで見たどんな顔よりも冷たくツクシを見ていた。


「ど、どうしたんだ、だいきち! 大丈夫か! なんか悪いことされたのか? 今のだいきちは……なんか黒い雷出てるぞ! しっかりしろだいきち! 僕が……僕が絶対どんな悪い奴でもやっつけるから、人間に戻れ!」


 だから、いつものだいきちに戻ってほしいと言葉を並べる。


 だいきちに手を出す奴は許せない。


 だいきちが自分にあんな目を向けるなんて、何か絶対に理由がある。


 なら絶対助けなければならないと、ツクシは脳みそを振り絞って言葉をひねり出した。


 しかしだいきちはやはり感情の感じられない目でツクシを見ていて。


 ぼそりと一言呟いた。


「……お前は人間じゃないだろう?」


「……え?」


 正気なのか、おかしくなっているのかもわからない。


 でもだいきちからそう言われただけで、ツクシの魔法は解けていた。


 パッと光が散って、大人から元の姿に戻る。


 頭がまったく働かない。


 怪我をした時なんて問題にならないくらいの衝撃は体の自由を完全に奪った。


 だいきちが右手をかざし、バチバチと音を立てる黒い玉を向けられてもツクシは動けない。


 黒い球はまっすぐ目の前に飛んできて、黒い闇はツクシの視界を埋め尽くした。


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