望んだ力
『敵艦主砲。無力化に成功しました』
「うおおお、今のはさすがに死ぬかと思ったな!」
『最大出力で放てば小さな島程度の質量なら蒸発させるほどですが、今の私ならどうということはありません』
「……テラさんも新装備効果で言うなぁ。大丈夫だと思う根拠を知りたいね」
『マスター。それは単純な話です。最大出力を放たれても、今の私のならば、完全に無力化できる。そう言うことです』
「そいつは……半端ないな」
どこまで本気かわからないテラさんが無駄に頼もしい。
背後のツクシは不意でも突かれたか、頭を軽く切ったようだが、宇宙戦艦の主砲を生身で喰らって、ちょこっと頭を切るだけというのは嫉妬する。
ただ呆けていたツクシを見ていると、俺は妙にいらだっていた。
「……まぁ愉快ではない」
色々と不満はあるが、その前に今度こそ本格的に動き出したテラさんの後輩に挨拶しなけりゃなるまい。
すでにまた新しく飛び出したエイの様な形の戦闘機がばらまかれている。
やけくそ気味に空を埋め尽くしたそれを俺は睨みつけた。
「あの……ロボ! 助けてくれてありがとな!」
ようやく元気を取り戻したらしいツクシにサムズアップし、俺は新装備の馴らしを始めた。
普段通り、肉体の延長線上のように意識をすればスーツは答える。
しかし本日の心臓部の振動はいつもの二倍だった。
『エレクトロコア二基は正常に稼働中』
「大丈夫なのか? テラさん? いきなり二つのせでテストなしはさすがに怖いぞ?」
『問題ありません。テストはバイクの時に済ませています。それにです今の私の辞書に制御不能の文字はありません』
「なるほど……そりゃあ頼もしい!」
俺は力いっぱい地面を蹴ると、体はロケットも顔負けの推進力でまっすぐ飛びあがった。
勢いあまって、戦闘機二、三機に体当たりで穴を開け、俺は気が付けば宇宙戦艦のはるか上を飛んでいた。
「ぬお! なんだこのジャンプ力!」
『敵機接近。迎撃を』
「了解!」
俺は空中に足場を作り、空中を走ろうとするとスーツが激しく光り、爆発的に加速した。
自分で蹴ったというよりは、足元で爆弾でも弾け飛んだんじゃないかと思うような、ぶっ飛んだ加速だった。
一瞬のうちに敵を補足し、堅そうな金属の装甲を粉砕し、体が勝手に動いたみたいに、次の敵を的確に捉えてゆく。
俺が動いた軌跡はジグザグと紫電が走り、遅れて戦闘機が爆散して残骸が落ちていった。
「……俺、超強いな」
圧倒的だと、そんな言葉が頭をよぎりかけているとテラさんが言った。
『ではごちそうしてもらったことですし。返礼と行きましょう』
「おおとも!」
新装備のスーツの性能は思った以上だ。
これならあのバカでかい戦艦にも多少なりともダメージを与えられるかもと希望も湧いてくる。
さて無理やりにでもあの戦艦の中に入りこんで、破壊工作でもしてやろうと気合を入れていたのだが……ふと空が不自然に暗くなっていることに気が付いて俺は顔を上げた。
「……テラさんなんか空が曇ってくんだけど?」
偶然ではないだろう。だって宇宙戦艦の上だけに雲があるし。
まさかと思って尋ねてみるとテラさんは答えた。
『ええ、雷雲を呼びましたので』
「雷雲?」
「はい。話は変わりますがマスター。貴方は神を信じますか?」
そして俺はいよいよテラさんがおかしくなったかな? と思いながら、適当な戦闘機の一機に着地して、その頭を叩き潰した。
ドカンと爆音が聞こえるあたり、テラさんの言葉を聞き間違えたということもなさそうである。残念ながら。
「……なぁテラさんや。やっぱドクターダイスの細工、悪影響とかないか?」
『心配無用です。実は私は「神」という存在はデータとして記録にとどめるのみでした。私のいた世界の人類は、信仰という概念を無くして久しいのです。しかし先日の一件で私は雷の大精霊となりました。機械である私が言うのも妙な話ではありますが、体感として大精霊がどういったものなのかを理解するに至りました』
「う、うん。つまり何が言いたいんだ?」
なんとなく怖くなってきたのはテラさんが間違いなく得意げにそれを語り、何かしらの成果を見せるための効果的な演出として、この話をしているとわかったからだろう。
実際、空の黒雲はどんどん巨大になって黒々と厚さを増している。
戦闘機は俺を取り囲む様に展開し、距離を保って攻撃の機会をうかがっていた。
テラさんは絶体絶命のこの状況を楽しむかのように語り続ける。
『何が言いたいか? 簡単なことですマスター。歴史上の人類は正しかった。考察するに人類は自由気ままな自然という力にほんの少しうまく合わせられるようになっただけではないでしょうか?』
「そ、そうだね」
これはもう語らせるしかない。そう思った頃、テラさんのセリフは途中で止まる。
『失礼。脱線しました―――では始めましょうか」
「なにを……」
俺の言葉は最後までは言えなかった。
テラさんの言葉と同時に雷雲から発射されたのは、雷なんて生ぬるいものでは断じてなかった。
本来なら雷となって無差別に放出されるはずの電力は収束し、殺意を持って真っすぐ敵へと降り注ぐ。
それはまるで光の雨のようだった。
着弾と同時にエネルギーは迸り、白く輝く。
あれだけいた戦闘機は残らず火を噴き地に落ちて、巨大な宇宙戦艦は、船体にいくつも大穴を空け、煙を吹きながらゆっくりと墜落する。
「……」
俺はスーツの中でただただ唖然としていた。
テラさんは、落ちてゆく戦艦の装甲に着地したタイミングを見計らって続きを話し始める。
『あまりにも圧倒的な超常的存在を私は理解しました。今の私のような存在を人類が神と捉えてもある意味では仕方がない事ではないでしょうか?』
「……自称はやめようぜ。そう言うのは人から呼ばれてなんぼだ」
『確かに。ジョークの類なのでお気になさらずマスター』
そう言ったテラさんがどこまで本気か、目の前の光景を眺めているとよくわからない。
ただここまでは、ただ単純に喜んでもいられたのだ。
望んでいた力が手に入った。
無節操に、だが確実に進めていた努力が実ったのだと。
だが積み重ねた物がカチリとハマった時、自分でも思っていた以上の力を発揮することがある。
連鎖的に、かみ合った歯車は力強く音を立てて動き出す。