光の中で見た背中
「……つつつ。今のは……痛かったな」
ツクシは閃光でちらつく視界の中で呟いた。
飛んできた光の攻撃をツクシは何とか防御してみたが、王城までは救うことができなかった。
ツクシの周りには王城の塔らしき瓦礫が散乱していて、ツクシ自身はえぐれた地面に身体が半分埋まっていた。
「起き上がらないとな……それだあのでっかいのを落とすんだ」
さすがに全身に痛みが走ったが、それでもツクシは無理やり体を持ち上げる。
だが温かいものが額を伝うのを感じてツクシはとっさに手で押さえる。
「……あっ」
手のひらには、異世界に来てから一度だって流したことがない鮮血がべったりとついていた。
『目標健在。主砲、無力化されました』
「信じられない……なんなんだこいつは?」
偵察機を次々と撃墜している剣を振り回していた女をディスプレイ越しに眺め、シリアルはバイザーで覆われた宇宙服の下で冷や汗を流していた。
外宇宙開拓隊第13567部隊、星間探索戦闘艦E7は航行中、原因不明の宇宙嵐に遭遇したはずだった。
しかし、現在なぜか惑星上に出現し、その場所が人類が生存可能な地表だと確認した。
この船に乗る唯一の人類であるシリアルはその責務を実行すべく、作戦行動中である。
まず手始めの制圧は簡単なはずだった。
偵察機の前で住民が剣を抜いた時は、なんて原始人と鼻で笑ってしまったが、とんでもない。
電磁シールドを張っているはずの偵察機はまるでバターみたいにあっさり斬られ。
追加で投下した多脚型戦車も簡単に破壊されてしまった。
これは侮らずに早々に決着をつけた方がいい。
そう判断したシリアルは主砲発射を指示した。
しかし、たった一人の人間がそれを受け止め、ほぼ無力化してみせるなんてあり得ない。
「今のは楽に町を消し飛ばす出力はあったぞ? いったいどうやって……いや。今はどうでもいいか。任務は敵対する可能性のある生命体の駆除だ。状況を把握するのは敵を倒してからでいい」
主砲は出力を絞っていたからまだ余力がある。
幸い主砲の一撃目はダメージを与えることに成功したらしく、目標は動きを止めている。
「主砲でもう一度攻撃だ。今度は出し惜しみするな」
『了解』
今度こそはあの人間の姿をした化け物を仕留めることができるだろうと、シリアルは手を緩めない。
命令は速やかに実行に移され、主砲の発射は秒読みに入っていた。
「あ……」
ツクシは自分の手についた血に動揺していた。
だが敵は動揺する暇さえ与えてくれないようだった。
茫然としながら手から視線を逸らすと、先ほどよりももっと大きな光が空を赤く染め上げているのが目に入った。
何とかするために、ツクシは体に力を籠めようとしたがまだ力は入らなかった。
「……グギギギギ!」
焦るがどうにもならない現状に汗が異様に流れ出る。
だが、追撃は容赦なく光の速さで再び落ちて来た。
こうなったら、またここで受け止めるしかない。
聖剣を構えようとしたツクシだったが、その前に自分の前に飛んできた影が光の間に割って入るのを確かに見た。
「へ?」
そして影は光を受け止めると、まるで吸い込むように消しさってしまった。
光が収まったことで影の輪郭がはっきりと見える。
口を開けたまま、ツクシは機械の背中と赤くたなびくマフラーを見た。
ツクシの瞳はウルリと輝く。
「……ロボだ!」
ロボはツクシを振り返り、いつものように親指を立てた。