お嬢様救出作戦
あっという間の出来事だった。
俺、大門 大吉は様子見のために遠くの高台から監視を続けていたが、あまりにも豪快な誘拐に立ち会ったというのに反応する間もなかった。
騎士団にコソコソするよりも、ついていったほうがよりパワードスーツの活躍の場が広がるんじゃないのか? なんてヒーローらしからぬ待ちの姿勢がこの失敗の原因のような気がしないでもない、反省である。
しかし騎士団の方々が思いのほかとんでもないというか、あのお嬢様がすごく熱い方だったのが驚きだった。
ひょっとすると、以前の戦闘時ドラゴンの前に飛び出すタイミングをちょっとでも間違えていたら、炎のダブルサンドで焼き尽くされていた気がして、俺は嫌な想像を振り払う。
それはともかく今は状況の整理が必要である。
女騎士のお嬢様が攫われてしまった。
それもなんだかよくわからないモノに地下に引きずり込まれるという、何ともエキセントリックな方法で。
俺としては地面に引きずりこまれるあたり、あの赤毛ドリルの呪いなんじゃないかなってちょっと思ったが、言ったら不謹慎そうだった。
「……なんかいきなり状況がひっくり返ったんだけど? 何あのでかい腕? オークなの?」
「……あの馬鹿みたいに強力な炎の魔法にびくともしていなかったぞ。なんだ、あの耐久性は?」
「アレが蒸気王なのか?」
感想は多々あるが地面の下にやばい奴が隠れていたことだけはわかった。
今の光景をヘルメットのカメラを通じて同じく見ていたテラさんは、あのオーク達の装備を冷静に分析していた。
『オークの所持していたテクノロジーは驚くべきことに蒸気機関をより発展させたものだと推測されます』
「蒸気機関……あの白い煙って蒸気なのか……」
あのオーク達、これまた渋い趣味をお持ちの様だ。
なんとなく懐かしさを感じるデザインの鎧だなとは思ったんだ。
未知の文明に、未知の敵。
わからないことだらけで、頭の痛い事である。
だが今重要なのは、俺がこれから動くのかやめるのかそれを決めることだった。
騎士団とか、国家の一大事とかはひとまず考えから外す。
とるべき道はただ一つだった。
「よし……行って来るか!」
俺がそう宣言すると、味方のはずのリッキーとシルナークからは呆れた視線が飛んできた。
「なんでそんな結論になったんだろう?」
「さぁな。だが当初の予定通りではある」
「その通り。スーツの標的がそこにいる。それにせっかく助けたつもりの女子がまた攫われた。こいつを動かす理由が二つもあれば、ヒーローの出番だろう?」
いや、そもそも理由など必要ないのかもしれない。
普通の人間が二の足を踏む場面で、たやすく一歩踏み出してこそ、ヒーローと言う物じゃないだろうか?
「まぁ、あのお嬢様に助けが必要なのかわかんないんだけどね」
「いらないなら。そんときはそんときだ」
リッキーの言う通り、それはまぁ確かに。
攫われたのがあのお嬢様なら助けに行く方としては非常に気が楽だ。
「それじゃあ、始めますか」
「そうだな。このまま帰ってはそもそも労力の無駄というものだ」
「僕は帰ってもいいんだけど……」
リッキーには悪いが、ここまで来た以上何もしないで帰るなんてありえない。
俺が服を脱ぎすてると、服の下には黒いゴムのような素材のインナーがすでに着込んである。
パスワードを打ち込むと持ってきていたコンテナが開き、中から俺のスーツが飛び出してきた。
俺はそのあまりのカッコよさに震えていた。
「くぅ! 我ながらいい仕事した!」
『マスターそんなことを言っている場合ではありません』
「そうだった!」
俺は着ぐるみを着るようにスーツに入る。
ぷしゅっと音を立ててフィットするスーツはインナーをつけるとつけないとではフィット感が段違いだ。
ヘルメットを被り、準備はできた。
『ヘルメットとスーツの接続を確認』
「各部問題なしだ」
『了解。起動します』
ブオンとスーツの目に光が灯る。
前回以上にスムーズな立ち上がりに、俺は歓喜の声を上げた。
「いける! いけるぞ二人とも!」
「当然だね! 調整は万全さ!」
「こちらも手は抜かないさ。さて後はお前次第だ」
「おっけー……」
最後の仕上げにシンボルの赤いマフラーを巻けば、勇気がみるみる湧いてきた。
「スーツの力はここから高みの見物をさせてもらおう。危なくなったら置いて逃げるからな?」
「僕もそうする。君は死んでもスーツは持って帰ってくるように」
「無茶言うなぁ……ひどい奴らだ。なら、せいぜい死なないように―――いや。死ぬ気でヒーローになってくるわ」
俺は宣言して、一息に飛び出した。
高く高く、体はジャンプし空中から騎士団を確認して、その中心辺りに着地した。
俺は周囲を見回す。
騎士達は面食らって、俺を見ていた。
「お、お前は! 白い戦士……なのか? 本当に存在したのか!?」
どうやら存在すら疑われていたようだ。
ドラゴンの時はみんな気絶していたし、それは仕方がない事だろう。
俺はヘルメットの中でクスリと笑う。
敵なのか味方なのか判断しかねて動き出せずにいてくれている状況はありがたい。
彼らに親指を立てて見せ、俺はそのままあの巨大な腕が出てきた穴に飛び込んだ。




