召喚されたもの
「なんですか……アレは」
今まで見たこともないような顔で焦りを見せたヒルデは一目散に王城へと走る。
グオングオンと不思議な音が聞こえてきて、空に浮かんだままの物体は、空に固定されたまま落ちてくる気配もなく、ピクリとも動かない。
長細いインゴットのような形をしているように見えるそれは鈍い銀色に輝いていて、所々チカチカと光っている何かが見えた。
ヒルデを見送ったリッキーとシルナークはざわざわしている町の人同様、ぽかんとしつつ空から突如と現れた巨大物体見上げていた。
「うわー。なんだぁあれ?」
「どことなく機械っぽいな。この間暴れた化け物と似た印象も受けるが」
「また大騒ぎか。王都も退屈しないなぁ」
「全くだな。トラブルが多すぎやしないか?」
どこか緊迫しつつもお気楽なセリフをつぶやいていると、彼らの左手のブレスレットから、声が聞こえた。
リッキーとシルナークは慌てて自分たちの左手を見るとやはりそれはテラさんからの通信だった。
『緊急事態です。友軍の接近を確認しました』
「え? なんだって?」
「友軍? ひょっとしてあれか?」
二人してもう一度空飛ぶ物体を眺めるとテラさんは続ける。
『肯定します。アレは私の同じ世界の船で間違いありません』
「船なのあれ? なんかすぐ沈みそうだけど?」
「ああ、重そうだな」
明らかに海の上の船とは違うじゃないかと訴える二人に、テラさんは一瞬黙った。
『いえ、あなた方の言う水上を航行する船とは違います。アレは星の海。空の更に上を進むための船なのです。星間探索戦闘艦E7それがあの船です』
なんとも理解不能な話にリッキーもシルナークも今一ついていけていなかったが、目の前のテラさんという存在が、理解不能なものをとりあえず受け入れる土台となった。
「……なんがやばいの?」
「意味が分からないというのが正直なところだ」
リッキーは不安げに首をかしげ、シルナークですら詳しい説明を求める。
だが詳しく詳しく説明してもあまり意味はないと判断したテラさんは、説明の方向性を変えた。
『そうですか……ではすぐに退避を推奨します。出来る限り遠くへ』
いきなりの提案に面食らい、目を白黒させているリッキーとシルナークにテラさんは淡々と説明を続けた。
『あの船の目的は人類の生存圏を広げるために生息可能な星を発見し、外敵を排除することです。私の隊はもう少し規模が大きく、惑星の開発まで視野に入れていましたが、少々運用に変化があったようです』
「つまり?」
「どういうことなの?」
『つまり――あの船は侵略を目的としています』
「「……」」
告げられた言葉に、頭が追いつかず、リッキーとシルナークはゆっくりと再び空に浮かぶ船を二度見していた。