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雑貨屋の客

「あー平和だなぁ」


「平和だ」


 昼食の後の紅茶を飲みながら、ゆったりと過ごすドワーフとエルフ。


 静かで健やかな時間はいつもよりゆっくりと流れている気さえする。


ドワーフのリッキーは満たされた表情を浮かべていた。


「いやー。今日も中々繁盛だったね」


 そしてエルフにシルナークも優雅に紅茶をすすり、満足感を共有する。


「ほどほどに忙しく、潤沢な資金で円滑な研究が行える。うむ。素晴らしい」


「確かに。実は僕も色々と試作が捗ってしまってゴハンがうまいね」


 はっはっはと二人は陽気に笑いあっていた。


 まぁ一時の臨時収入でちょっとテンション高めの二人はここのところこんな感じである。


 二人が平和を満喫していると、店の扉のベルが鳴る。


 リッキーとシルナークが顔を上げると、扉から入って来た男装の麗人に二人の視線は奪われた。


「おや、店長さんは今日はいないのかな?」


 店に入るなりそう言った客に、リッキーはにっこり笑って接客した。


「いらっしゃいませ。この度はどのようなご用件でしょうか?」


「ああ、じゃあとりあえずコーヒーをもらおうかな」


「はい。かしこまりました。シルナーク、コーヒー一つ」


「了解だ」


 心得たもので、すぐさまコーヒーを準備する。


 コーヒの香ばしい湯気を優雅に楽しんだ女は一口すすって感想を口にする。


「うん。やっぱりこの店はいい豆を使っているね。ただ少し雑味が出ているかな」


「申し訳ございません」


 キラリと白い歯を輝かせ、お客様用スマイルを浮かべるシルナークにリッキーは微妙な表情をこっそり送るが何も言わなかった。


「オレの名前はイーグルという。こちらの店には何度か足を運んでいるのだがね。今日は店長さんに用があって来たんだ」


 イーグルと名乗った男装の麗人は、どうやらダイキチに用があるらしい。


 リッキーとシルナークは、なぜとは言わないがじみーに唇を噛んだ。


「店長は今外出中でして。そろそろ帰ってくるとは思うんですが、正確な予定はわからないんです。伝言などあれば承りますが?」


 リッキーがそう言うとイーグルは困り顔を浮かべていた。


「いやどうかな……伝言しても意味がないかもしれない」


「意味がないですか?」


「そう、近いうちに……」


 イーグルがそう言いかけた時、タイミング悪く店の扉が開いて話は中断された。


 新しく入って来た客は、軍服を着たクールな印象の美女である。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件ですか?」


 リッキーが接客すると、新しい客のヒルデは答えた。


「店長さんはいらっしゃいますか? いないのでしたらいつ帰るかも教えていただきたいのですが?」


「……」


 しかし新たな客もまた、やはり美人だった。


 リッキーとシルナークはじみーーに唇を噛んだ。


「どうしました?」


 一瞬間があったリッキーにヒルデが尋ねるが、リッキーは何事もなかったかのように無駄に爽やかな接客に戻った。


「いえ別に。店長はまだ帰ってきていないですよ。正確な予定はわからないですー」


「そうですか……間が悪いですね。勇者様が寂しがります」


 だが若干いらだった様子が見て取れるヒルデにリッキーは尋ねた。


「何かあったんですか?」


「ええ、勇者様が今朝王族の方々に呼び出されまして。目的は語られませんでしたが……おそらくは召喚魔法関連ではないかと店長さんが帰ったら伝えていただけますか?」


「召喚魔法ですか?」


「ええ。そう伝えてもらえれば、わかると思います」


 今一意味が分からずにいたリッキーだったが、その時思ってもみなかった方向から声が話に割り込む。


「ああー……やっぱりそうか。愚かだなぁ」


 急に会話に入ったのはもう一人のお客さんで、リッキーはぎょっとしてしまった。


「貴女は?」


 そして訝し気なヒルデは、声の主に尋ねる。するとイーグルはすぐさま自己紹介を返した。


「オレの名はイーグル。大きな揺らぎの予兆を感じてきてみれば、そんなことだろうと思っていたけど。召喚魔法とはまたずいぶんだな」


ヒルデの方を見て座ったまま足を組み替えたイーグルは薄い笑みを張り付けて訳知り顔である。


「貴女は何か知っているのですか?」


 召喚魔法とやらは重要なことらしく、厳しく目を細めるヒルデにイーグルは全く気圧された様子をみせなかった。


「いいや? でも外から何かを選んで引っ張り込もうなんて真似、制御できるか疑問だと思っているだけさ。一度目がたまたまうまくいったからって二度目がうまくいくとは限らない」


「……」


 なんだかヒルデの瞳がどんどん剣呑になってゆくが、最高潮になるほんの一歩手前でイーグルは席を立った。


「ではオレはここで失礼するとしよう」


 意味ありげにそう言ってイーグルはそのまま店の外に出て行こうとする。


「待ちなさい!」


 ヒルデが手を伸ばすが、その手はイーグルの体をすり抜けていた。


「!」


 動揺するヒルデにかまわず、イーグルは最後ににっこり笑って店内に手を振る。


「そうだ、生きていたら店長に伝えておいてほしい。忠告が遅くなってごめん間に合わなかったって」


 そして何が何だかわからないうちにイーグルの体は透けてゆき、ヒュンと完全に掻き消えてしまった。


「な、なんだったんだ今のは?」


「え? 幽霊とか? 何それ怖い」


 シルナークとリッキーが動揺していると、今度はズンと地面が大きく揺れる。


「なんだ!」


「次から次にもう!」


 店にいる中で最も最初に動いたのはヒルデだった。


 彼女が店の外に飛び出すのに続いて、シルナークとリッキーも外に出る。


 そして、目を見開いて王城の方を見つめるヒルデに気が付いて二人そろって視線を目で追うと、やはりヒルデと同じように固まってしまった。


 王城に黒くて大きな穴が見える。


 そして穴からゆっくりと降りて来たのは、それよりもはるかに巨大な長方形型のなにかであった。


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