王様の魔法
「おお! 勇者よ! よくぞ来てくれた!」
王は祭壇からわざわざ降りてきてツクシを迎え入れた。
ツクシはとりあえず立ち上がり、それに応えて形式的に跪く。
なんだか偉い人にはこんな感じにしておけばOK的なヒルデの教えである。
ニコニコと朗らかに笑う王は、ツクシに謝罪した。
「かしこまらずとも良い。忙しいところをすまなかった」
「いえダイジョブです」
「うむ、だが勇者に是非警護をしてもらいたく思ってな。余はそなたの力を信頼している」
そう言ってきた王様にツクシは首を傾げた。
「信頼しているのに、召喚するのか?」
召喚魔法は単純に戦力を補うために行うものだと、ツクシは認識していた。
単純に疑問に思ったことを口にすると、王は困り顔で言った。
「い、いや、それはだな……そなたへの信頼と今回の召喚魔法は別の話であるし。この国には更なる力が必要なのだよ。今後も勇者にばかりに負担を強いるわけにはいかん。ついこの間、魔物使いの一件が失敗したのはそなたも知っているだろう?」
ツクシはそう言われて、魔王が憑りついていた魔物使いの事を思い出した。
あれも確か国力増強のために招いていたはずである。
「今この国は混乱の中にある。魔王を倒したからと言って、モンスターがいなくなるわけでもない。いや、むしろ魔王がいなくなった今、真の平和を勝ち取るためにはここからの戦いが重要だと言える。王族もそのために力を振るうべきだと余は考える」
「……」
ツクシにしてみても王の言葉に思い当るところがないわけではなかった。
毎日のようにどこかでモンスターは暴れているし、魔王の残党が現れれば魔法が効かないと泣きつかれたことだってある。
もっとわけのわからないモノが突然現れて暴れだすことだって日常だ。
ツクシが一応コクリと頷くと、王はうむと頷き祭壇の中心へと向かった。
「―――では召喚の儀を始める」
そう言った王は、祭壇の上で杖を掲げた。
祭壇の周りでは布人間達が躍りだし、躍動感たっぷりの舞を披露しているのは、なんだかちょっと面白い。
楽器を持った音楽隊みたいなのもいて、気合の入った演奏も続いた。
すると王の周囲に魔力があふれて祭壇の上に複雑な模様が浮かび上がった。
更に祭壇の外にいる布人間達からも魔力が立ち上る。
祭壇は王の魔法を増幅し、金色の柱が立ち上っていた。
「来たれ! 異世界の者よ!」
王は叫ぶ。
金色の柱は空をゆがめ、徐々にその揺らぎは大きくなっていった。
「……なんか、嫌な予感がするな」
だが何かおかしいとツクシは腰を上げる。
全身に鳥肌が立つような寒気を感じ、いつしか空の揺らぎは王都の空いっぱいに広がっていた。
ツクシは王に駆け寄った。
「王様! 僕を呼んだ時もこんな感じだったのか?」
近寄ってみた王の顔色は……びっしりと汗をかいて非常に青く染まっていた。
「いや……こうではなかった気が、もっと揺らぎも人一人分だった気も……」
しどろもどろな王様にツクシは確信した。
ああ、これは本当にかなり予想外の事態が起きているらしい。
そうツクシが理解していると、空には真っ黒な穴が開き、ゆっくりと広がってゆく。
「……うっ! 何か出てくる?」
穴を見たツクシは目が点になる。
中から出て来たものは、ツクシの理解すら飛び越えていた。