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勇者と雑談

 トシが片付けをしているとなると、当然接客の方はあぶれた人間がやることになる。


 リッキーとシルナークは尋ねてきた勇者を前にして、若干緊張をしていた。


 異世界からやって来た少女、春風 ツクシは、王都を長年苦しめていた魔王を打倒した正真正銘真の勇者である。


 王都の超有名人で、コロシアムの一件でその強さも知れ渡り、飛ぶ鳥を落とす勢いの時の人である。


 年下の少女とわかってはいても、圧倒的な肩書は時に人を威圧する。


 つまりリッキーとシルナークは勇者ツクシという少女の前では固くなる傾向があった。


「えー。まだダイキチ留守かー。そうかー」


 そしてその肝心の勇者様は、目の前でうなだれていた。


 頬を膨らませ、大きなカップに並々と注がれたグレープジュースを両手でもって少しずつ飲んでいる勇者ツクシはこうしてみると、普通の女の子にしか見えない。


 ふと視線をずらしてシルナークに助けを求めようとしたら、いかにも忙しいんですよという雰囲気を出して唐突にシンクの掃除を始めた。


 近くにはいるようだが最悪である。


 ずいぶんとガッカリしている勇者ツクシにリッキーはハハハと笑い、ひとまず共通の話題を振った。


「勇者様はダイキチが好きですねー」


「うん。僕はダイキチが大好きだぞ?」


「……!」


 にこやかな笑顔で即答されると固まってしまうリッキーだった。


 リッキーはこそっとシルナークに相談した。


「……これはどう取ればいいんだろうか?」


「……別にどうとも取らんでいいだろ」


「そうか……そうだね」


 リッキーはすぐに会話に戻る。


 幸いツクシは飲んでいるジュースに夢中だった。


 だがそういえば、リッキーはこの店の店主のダイキチと勇者の関係について詳しくは知らない。


 知っていることと言えば、勇者と同郷の異世界人で、王都で元々一緒に兵隊をしていたことくらいか。


 一度意識してしまうと気になる物で、この機会に聞いてみるのもいいかもしれないとリッキーは考えた。


「えっと、勇者様はダイキチとは長いんですよね」


「そうだぞ! こっちに召喚された時からずっと一緒だったんだ!」


「こっちに召喚された時からですか」


「そうだぞ。僕とだいきちはそれはそれは大変な旅を潜り抜けたマブダチなんだ!」


 興奮した様子で語るツクシにリッキーは驚いた。


 親しい親しいとは思っていたが、勇者にここまで言われるほど信頼されているとは思っていなかったからだ。


 だが同時に当然の疑問が浮かぶ。


「それなら何で、ダイキチは王都を出たんだろう? ……んご!」


 リッキーは強烈な痛みを脇腹に感じた。


 一体なんだとやった犯人を睨むと、シルナークはその質問はまずいだろうとその目が語っていた。


 だがもう口から出てしまったものは飲み込めない。


 リッキーの目の前には非常に悲しそうな顔をした勇者ツクシがいた。


「勧められたんだ。僕は嫌だったけど」


「そ、そうなんですか? 何だか意外ですね。あのダイキチが勧められたくらいで言うこと聞くなんて」


「うん。ダイキチが出て行った時、僕は追いかけるつもりだったけど。でも副長に止められた」


「止められたんですか?」


「そうだぞ。いったん距離を置かないとダイキチはいい加減死ぬって」


「あー……なるほど」


 リッキーは出会ったばかりのダイキチを思い出す。


 確かに体力はあったが、それでもダイキチは普通の人間だった。


 いや魔法を使えなかったことを考えると、普通以下と言ってしまってもよかったと思う。


 そんな彼が魔王という驚異との戦いに交じっていた時点で異常なのだ。


 それでも何とか生き残ったダイキチを、どうにか戦いの現場から引き離そうという判断は、彼への気遣いを感じられる。


「だいきちが死ぬのは嫌だから―……王都にいることにした―」


 だが頭では理解していても納得まではしていないツクシの様子に、リッキーとシルナークはコソッと、顔を見合わせた。


「なんかつついてはいけないところを突いてしまったのでは?」


「根は……深そうだな」


「でも! だいきちは王都に帰って来た! さすがだいきちだ! これできっとずっと一緒にいられるに違いないぞ!」


「そうですね! そうに違いありません!」


「ダイキチはそう簡単に死なないでしょう。そんな姿想像できない」


 リッキーとシルナークはここぞとばかりに同意すると、ツクシはものすごく嬉しそうに頷いた。


「な! 僕もそう思う! 今度はもっとちゃんと僕がだいきちを守るんだ!」


 だがその言葉を聞いて、リッキーとシルナークの表情は微妙になる。


 あのダイキチが守られる?


 それはダイキチという異世界人が一番望んでいないんじゃないかと、二人は友人としてそう思った。


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