ドクターダイスの実験
「ぽちっとな」
嫌な予感しかしないフレーズと共にボタンは押され、俺は身構える。
何か起こったようには感じなかったがドクターダイスのあのにんまりとした表情を見れば何かが起こることは疑いない。
闇の大精霊も同じように考えただろう。
だが、同時に視界に入ったドクターダイスを見て悪感情がさらに掻き立てられたようで、光が一切反射しない槍が生成され、ドクターダイスへと向けられていた。
「……やはり先に消去すべきはお前か。ドクターダイス。何をした?」
「ヒョッヒョッヒョッ! ヘイトを取りすぎたか!」
「そんだけ意味ありげなことペラペラしゃべってたらあったりまえだろうが!」
俺は鋭く伸びた槍を、すんでのところでマフラーを鞭のように操って逸らした。
ドクターダイスの目の前で派手に火花と雷光が弾けた。
冷や汗もののタイミングで割って入れたが、このまま動きを制限されるのは心底まずい。
だというのに、特に動揺する様子もないドクターダイスの声がすぐ後ろから聞こえた。
「素晴らしい、その位置じゃよ! いやぁ放電っつうのもある意味ロマンじゃよな」
「何言ってんだ?」
「時にわし不満があるんじゃがな? 電気の大精霊がおらんのって……機械好きとしては不満じゃないか?」
「は?」
寒気を感じると同時に、バンと背中のエレクトロコアに勢いよく何かを叩きつけられた。
「おま……一体何した!」
振り向こうとしたが、すでに何かは始まっている。
エレクトロコアが、いつもと比較にならないほど異常に光り輝きはじめた。
目のくらむような光の中、ドクターダイスのドヤ声が光の中で聞こえる。
「ヒョッヒョッヒョッ! さっきのボタンはこの地下施設の稼働スイッチじゃよ!」
「稼働スイッチ?」
「そうじゃとも。闇の大精霊は大量の精霊を混合して作り出した。じゃから六体目は新しい属性を生成しようと思っとったんじゃよね。力だけを抽出するから闇の大精霊以上に精霊を集める必要はあったが、条件はそろっておったからのぅ。お前、ここに来るまで一体どれだけの戦闘員を壊した? 更にはナンバー1から5まで勢ぞろい。六体目の準備はもうすませってあった。だってわしドクターダイスじゃし?」
「!」
そんな台詞で、俺はドクターダイスが何をしたのか理解して目を見開いた。
思い出した。
この施設は、人工的に大精霊を作り出す施設で、この闇の大精霊はドクターダイスがこの場所でまさに生み出したってことを。
「―――ドクターダイス! 面白いことするじゃないか……死んだら化けて出てやるからな?」
「おお! それは最高じゃな! その時は改めてお化けベースでも新たな大精霊ができるのか試してやるわい!」
異世界転移の次は転生か。
それもまたぞっとしない話である。
『……!……!ジジジ! マスター……!』
「テラさん……すまんね。また危ない橋を渡る」
スピーカーから聞こえてくる音声が乱れ、過剰に放電が俺の体から迸っている。
俺は、仕方がないのでこうなっては慌てるのをやめて闇の大精霊へと向きなおり、不敵に笑って見せた。
「闇の大精霊……悪いな、ちょっと時間を取らせるぞ?」
「お前……何をしている!」
かっこつけるのは重要だろう。死に際ほどスマートに行きたいものだ。
慌て始めた闇の大精霊の攻撃は悉く俺の周囲で弾かれていた。
それもそのはず、一気に集まってきた力の流れが俺の目にはしっかり見えていた。
それはまるで雪崩にでもあう直前のようで、俺はエレクトロコアの輝きに飲み込まれた。