不思議な力
「……何があった?」
『不明です。エレクトロバスター使用時に、未知のエネルギーが上乗せされたと推察します』
俺は自分の手を眺めると、なぜかパワードスーツの腕は赤く発光していた。
「うわ! なんだこれ!」
『マスターから強烈なエネルギーの反応があります』
「そういえば……なんかすごいのを感じるな」
『今まで気が付かなかったのですか?』
「いや、調子がいいなとは思ってたけど。自分の事ってよくわかんないじゃん?」
『わかんないじゃん? で人間が手のひらから火の玉を出せるようにはならないと思われます』
「まぁ、普通はそうだろうとも」
今までうんともすんとも言わなかったのだから間違いない。
突如として魔法の才能に目覚めた可能性は……たぶんないと思う。
ただパワードスーツの装備を使ったのとは違う未知の感覚に全身がしびれている。
だが、いつまでも感動していられない。
ところどころ焦げていた闇の大精霊だが、ダメージはほぼないのか、すぐに立ち上がって襲い掛かってきた。
「……忌々しい異世界人め。貴様から消去してやる」
闇の大精霊の背中のパイプが脈打ったのが見え、今度は無数のパイプがのたうちながら俺を押しつぶそうとしてくるが、俺はパイプの隙間を縫うようにかわしてゆく。
やはり体のキレはいい。今までの経験で言うと聖剣の力が宿った時が近いかもしれない。
まったくわからないが、仙術の修行の成果ということにしておこう。
今までよりも遥かに力強い力の流れが俺の中で出来ているような気がしたが、しっかり集中できるほどの余裕はない。
襲い来る闇の大精霊が操る物量は半端ではなかった。
部屋が壊れたからか、パイプの数が明らかに増えている。
そこら中に木の根のように張り巡らせたパイプが一斉に動き出す様は、部屋ごとまとめてすべて敵というのがしっくりくる。
「……!」
俺が軽口をたたく間もなく、回避に専念していると、やはりまた声が聞こえた。
無駄が多い―――
声が聞こえた瞬間、足元に常にあった水の抵抗がまったくと言っていいほどなくなる。
その上、俺の身体はいつの間にか、水に覆われていた。
「なんだこりゃ!」
俺はほとんど意識することもなく体が動く。
というか水流となった水が蛇のように大量のパイプを押し流しつつ、かいくぐってゆく。
わけのわからない状況をいち早く理解したのは、他ならぬ闇の大精霊らしい。
何か察したのなら俺にも教えてほしかった。
「……これは、まさか……」
なぜかひどく動揺して見える闇の大精霊は、今度は逃げ場もないほど大量のパイプの壁を作り出し、全方位から俺を押し潰そうとしてきたが、それを阻んだのは突如発生した竜巻だ。
恐れるな―――
「ホント何なの!?」
竜巻はパイプを一瞬で切り刻み、俺を守っているようだった。
俺はぽかんとすることしかできない。
輪切りにされ力をなくし、落下するパイプの残骸をしばし棒立ちで見つめていた闇の大精霊は小刻みに震え始める。
「……やはり。裏切ったのかお前達!」
今までにない叫びとも言えるような声を出す闇の大精霊は、自らの身体から出た黒い波動で闇の柱と化していた。
当事者でありながら、完全に俺は置いてけぼりである。
自分の知らない間に、何かとんでもないことが続くこの状況に俺はこっそり涙目になった。
「ほんと……なんだこれ?」
『不明です』
そして俺の周囲には、なんだか恐ろしい力を感じる四色の光がふわふわと漂っていた。