滅びた村の調査
鉱山街を出発して数日後。
巣の近くでドラゴンを崇めていたといわれる人間の集落は廃墟となり、すでに見る影もない。
何者かに襲撃を受けたのは間違いなかった。
石造りの建物は無残に崩れていたが、その崩れ方は圧倒的な力で叩き潰されたようだった。
そしてもう一つ、村から見えた山は明らかに異様で、シャリオは一瞬言葉を忘れた。
「なんですかあれは……」
「初めて見る建築物ですな……生き物のようで不気味です」
ドラゴンの住む山は文明の立ち入る隙のない秘境のはずだ。
しかし今は血管のように無数の管が這い、いくつも立つ煙突から白い煙が上がっているのが遠目からでも確認できた。
明らかに何者かが建設した建物が、山に食い込むようにそびえ立っていた。
そしてそれは自分達とは明らかに異なる文明の手によるものだった。
「城と言われても違和感がありませんね……」
シャリオはジャンに意見を求めると彼も冷や汗をかきながらも、頷いた。
「そうですね。何者かが糸を引いているのかもしれません」
「……例えば噂に聞く、魔王とか?」
「お嬢様、滅多なことを言うものではありませんよ」
シャリオが言うと、ジャンはたしなめるように言った。
魔王とは王都を長い間震え上がらせていたモンスターである。
最近勇者に滅ぼされたが、その記憶は全員の記憶に新しい。
ジャンの態度も理解できたが、それでもシャリオは語気を強めて反論した。
「名前を恐れても仕方がありません。あれを見ればいてもおかしくはないと思いますけど。こればかりは実際に確かめてみなければわかりませんね」
「……ええ」
不可解なことが多すぎる。
少しでも情報が必要なところだが、その情報は向こうから現れた。
当たり前といえば当たり前の話。この村を敵が攻め滅ぼしたというのなら、とっくにこの場所は敵の腹の中なのだから。
「……どうやら、こちらから行く必要はないようですよ?」
「……そのようです」
周囲に漂う剣呑な雰囲気に騎士団は身構えていた。
不気味な、何かが軋むような音がする。
そしてシューっという、聞きなれない音が騎士団を囲むようにそこら中から聞こえてきた。
「総員抜剣!!」
シャリオの号令で、騎士達は剣を抜き放つ。
「さて、何が出ますか……」
ジャンが呟き、そいつらは姿を現した。
大きな牙を持つイノシシのような頭に筋肉質な体つきは、まさにオークの特徴だ。
しかし現れたモンスターが身に着けている鎧は、まるで見たことがないものだった。
おそらくは鋼の鎧である。ただ上半身だけ妙に武骨で、パイプをいくつも張り巡らせている。
背中から白い蒸気を吹き出し、断続的な音を常に響かせる妙な鎧のせいで、オークの異形はより不気味なものに見えた。




