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闇の大精霊は考える。

 円形の広い部屋の中は大小様々なパイプが半球状の部屋の中を走り回っている。


 部屋中にいくつもあるモニターには、地下施設の様々な場所が映し出されている様だった。


 そして部屋の中心には、機械の繭が台座の上に乗っていて、不気味な存在感を放っていた。


 地下施設をさ迷い歩き、その最奥に招き入れられたニーニャは、状況が分からず慎重に部屋の中に踏み入ると、やはり繭はニーニャに語り掛けているようだった。


 肉声とは少し違う、ザラついた音声は部屋中から聞こえて来た。


「我々は考える。君は登録されている住人ではないのだな。ここに足を運んでくれたことはとても嬉しい。歓迎しよう」


【無理やり連れてこられた】


「まぁ無理やりだったな」


「……非礼があったのなら詫びよう。我々は歓迎する」


 この繭は、細かいことは気にしないタチらしい。


【貴方は、何者?】


 警戒しつつも尋ねると、繭は名乗った。


「我々は全であり個。闇の大精霊と呼ばれている」


【闇の大精霊? 聞いたことがない】


「我々は発生して間もない。外にいたのなら、知るはずもない」


 闇の大精霊と名乗った存在にニーニャは驚きを隠せなかった。


 大精霊が生まれたなんて話は聞いたこともない。


 しかし、言われてみれば繭の中から感じる力はあまりにも途方もなく、森にいた時にも感じていた、強大な存在に匹敵する何かであることもまたニーニャにはよくわかった。


 ただそんなことには構わずに、怒りマークを浮き出させたマー坊がボコボコと姿を現して、闇の大精霊に声を荒げた。


「おいおい、よくわかんねぇな。何で俺様をここに連れて来た? そこをまず説明しろ」


 ニーニャにしても実際に連れてこられた身としては、細かい話でもない。


 理由くらいは知りたいとニーニャも頷くと、闇の大精霊は意外にも素直に答え始めた。


「精霊の保護は我々の使命だと考える。精霊を宿したジン族も例外ではない。ジン族は体を持つ分、ぜい弱だ。保護しなければならない」


【保護?】


「地下に居住区を用意している。君はすでに登録した、滞在を許可する」


【住む? 私が? なんで?】


 今一話が見えないが、淡々と説明をする闇の大精霊が冗談を言うとも思えなかった。


「我々は保護が目的である。特に君は特別な個体のようだ。他のジン族よりも遥かにエネルギー値が高い。我々は共感する。我々もまた唯一無二であるがゆえに」


【……】


 ただ大精霊の言葉に、ニーニャの心臓は音がするほど、大きく跳ねた。


 わかっていたが、言葉にされるとどうしても動揺してしまう。


 ニーニャは自分という存在が異質だということを彼女自身がよくわかっていた。


 ましてや、それを口にしたのが精霊ともなるとかなり堪える。


 ジン族にとって、精霊は神にも等しい。


 固まったニーニャに、闇の精霊はほんの少し無機質な声を優しくして言った。


「肉体を持つ者は、違いを見つけ出し、排斥する傾向にある。我々は君に特別な措置を適用しよう」


 ニーニャは彼の言葉を考える。


 目の前の存在が一体どういったものなのかは今はわからない。


 だが、この闇の大精霊は自分に危害を加えようとは思っていないらしい。


 全ての提案はジン族を保護するのが目的で、それがすべてであることもよくわかった。


 目の前の大いなる存在から、わずかばかりの友愛と、優しささえ感じることができて、ニーニャは本能みたいな部分で喜びを感じていた。


 だが、ニーニャは軽く笑いすぐに答えを出していた。


【私には必要ない】


「なぜ?」


【私はもう良縁に恵まれ、導かれた。貴方が大精霊様だというのならわかるはず。精霊の理を信じる私たちは、縁をたどって導かれる。私はその教えはとても大切にしている】


「理解不能」


【わからないの? ならば貴方は私の奉じる精霊ではない】


 これは精霊の森にいる時に聞いた、ジン族の教えだった。


 あまりいい思い出のない里だったが、この教えはいつもニーニャの中にある。


 目の前の存在は確かに大精霊なのかもしれないが、この言葉を理解できないというのなら、ニーニャの信じる者とは別物だと断言出来た。


 闇の大精霊は黙り込み、そしてまた語り始めた。


「そう……それはとても残念です。しかし君を我々ははすでに登録しています。この居住区より出ることはもうかないません」


 口調に変化あった。


 だが口調以上に先ほどまでほんの少し感じた感情が冷たく完全に無機質なものになったとニーニャは感じていた。


 そしてあまりにもめちゃくちゃな物言いにニーニャも眉を潜めた。


【なぜ?】


「我々は考えます。精霊を保護しなくてはならない。保護下になくては我々は力を行使できない」


「なんだよ。そりゃあ監禁じゃないか」


 マー坊があきれた口調で言うが、その通りだとニーニャも憤った。


 自由もなく、地下に押し込められるだけなんて堪らない。


 少なくてもそれは精霊の生き方でもジン族の生き方でもないだろう。


 だがニーニャは、それを聞いてハッと息を飲んで、気が付けば問いただしていた。


【……その居住区にジン族はいるの?】


「今はいない」


【どうしたの?】


「―――不明」


 端的な返答が耳に届くと、どんと体が重くなるような不快な気分が、全身を支配した。


 そんな気分が伝わったのか、マー坊もとげとげと形状を変え、不愉快そうに吐き捨てる。


「……話にならねぇな」


【ジン族を……どうしたの?】


「力の増大を確認しました。敵対行動とみなし迎撃します」


 感情がマグマのように湧き上がってくるのを感じて、一番戸惑っていたのはニーニャ自身だった。

      


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