ニーニャの地下探検
「おい……」
【……】
「おいってば、いつまでこんなところにいる気だ?」
【……もうちょっと】
ニーニャは謎の鎧に連れてこられた、どこかの地下をさ迷っていた。
とても深く入り組んだ施設である。
その雰囲気は、どこかダイキチの秘密基地に似通っていて、無機質な通路が迷路のように続いていた。
それなりに長く歩いて飽きて来たのか、マー坊はニーニャに話しかける。
「あの緑の鎧は、最初に入れられたなんもない部屋を懲罰房とか言ってたな」
【ジン族を閉じ込めるための部屋……でも、簡単に出られた】
「鍵すらかかってなかったからな。不用心なことだ」
マー坊の言う通り、ニーニャ達は確かに捕らえられてここに連れてこられたはずだったが、連れてこられた部屋はいつでも抜け出せるような状態だった。
侵入者を閉じ込めておく牢でもなく、出入り自由なその部屋を抜け出して、ニーニャとマー坊は探索を続けているわけだ。
都合がいいが、あまりにも露骨な不自然さが気にならないわけではなかった。
「いや……相手方にも何かの狙いがあってこうしたのか? じゃなきゃおかしいよな?」
【でも、連れてきたあの緑色の鎧は変だった。受け答えが機械っぽい。私を部屋に入れたらすぐにどこかにいなくなった】
「そうだな。決められていた通りに動いただけって感じがしたな」
【そう】
あらかじめ決められていた命令通りに動いたが、実際は機能していなかった。
それが、ぼんやりとだがニーニャが感じた印象だった。
【ジン族の気配がまるで感じ取れない……ここにはもういないみたいに】
「そうだな、いないんじゃねぇのか?」
マー坊があっさり言うと、ニーニャはなんとなくイラッとしてマー坊を掌で叩き潰した。
「なんで潰した! 相槌打っただけだろうが!」
【なんとなく!】
「おいおい言い切った割にセリフは曖昧だな。叩き潰されたかいがないぜ」
そんなことを言われても、ニーニャに言わせればデリカシーの問題だ。
わずかに希望を持っていたらしい自分にも驚いたし、今でもジン族の気配を探していることにも驚いていて、ニーニャ自身ここに来て情緒が不安定である自覚もあった。
でも来てしまったのだ。
手を引かれて来たようなものではあるけれど、いやでも過去に向かい合うことになるだろうと漠然とした不安は旅をしている時からずっとある。
ここに来て自然とニーニャの表情は強張っていた。
そんなニーニャの目の前に黒い球体は現れて、大きな目でじっとニーニャを見ている。
見透かされているんだろうとばつが悪くなって視線をそらしたニーニャに、マー坊はため息交じりに言った。
「なんだ? うんこか? その辺の陰で済ませて来いよ、誰も見てねぇし」
【……】
バフンとニーニャは、力の限りの大ぶりで、マー坊をぶんなぐった。
会心の一撃でマー坊は花のように散った。
拳を振り、ニーニャはハァと大きめにため息を吐く。
まぁ深刻に考えすぎても仕方がない。
ジン族の気配は感じられないが、それ以外のとても大きな力は常に感じていた。
それはこの施設の地下深く。今ニーニャが向かっている先にある。
【……ここかな?】
たどり着いた最奥にはとても分厚そうな扉があった。
力づくでこじ開けるにはかなり大変そうな鋼鉄の扉だが、やってやれないことはない。
気合を入れてニーニャは扉の前に立つが、しかし扉は何もしていないのに重い音を立てて動き出す。
ニーニャは復活したマー坊と顔を見合わせた。
「何かしたのか?」
【なにもしてない】
そんなことを言い合っている間にも扉は完全に開き、奥から声が飛んでくる。
「ようこそ……ジン族の少女よ。歓迎しよう」
声の主は、無数のパイプがひと固まりになった繭のような形状をしていた。