炎の精霊ナンバー2
横倒しになったビルの壁面をバイクでまっすぐ進む。
俺とドクターダイスは崩壊寸前の不安定な道を進んだ。
「もっとスピード出ろ! いつ崩れてもおかしくないぞ!」
「まさか建物丸ごと道にするか! しかし製作者としてはあいつらもうちょっと活躍できんもんかのぅ!」
「はっはっは! そいつはお気の毒だ! まだまだ続く予定だから覚悟しろ!」
狙い通り、ドームまでの道は出来たが、その代償としてあれだけ整然としていた高層ビル群は、見える範囲では瓦礫の山である。土埃がうっすらと立ち込め、壊れかけた建物を眺めているとさすがに罪悪感が沸いてきた。
「……ちょっとやりすぎたかな?」
「何冷静になっとるんじゃよ? いいと思うぞ? 本番はこれからなんじゃから?」
「あんたが言うか? まぁそりゃそうなんだろうが」
あのドームに何かがあるのは俺にも分かる。
このドクターの研究施設があるとわかっている時点で地雷満載だが、あそこから感じる気配は、やばそうな匂いがプンプンした。
なんだか気配が気持ち悪い。なんとも形容しがたい不気味さは仙術をかじってから初めて感じるものだった。
「ほれ、さっそく来たぞ? 次はどうするね?」
どこか挑戦的なドクターダイスの言う通り、ドームの天井に何か赤い奴が立っている。
そいつは今までの鎧より機械部品が多く、パイプがいくつも生えている。
そして一番目を引くのは、両腕の大砲だった。
「……なんだあれ? 大砲?」
「ナンバー2は炎じゃから。主にエネルギー担当なんじゃよ。あの両腕をとある装置に接続してじゃな蒸気を作り出すわけじゃな」
「なんて豪華な湯沸かし器……そいつはさぞかし火力が強そうだ」
構えた砲口から炎が吹き出せば、足場にしているビルの側面を舐めるように炎の津波が眼前から迫ってきて、肌が泡だった。
「……っ!」
「わし焼け死にそうなんじゃけど!」
「……そういえば俺は耐火装備だから大丈夫だ」
「絶対よけろよ!」
大慌てのドクターダイスに催促されて、俺はとっさにマフラーをどこかの壊れた鉄骨に巻き付けてバイクごと飛び上がって炎をぎりぎりで回避した。
「縮め!」
「ウヒョヒョ!」
更にリリースからもう一度キャッチ、新たな軌道で振り子の要領でスピードを乗せ……俺はとっておきの飛び道具を発射した。
「食らえバイクアタック!」
空中で乗り捨てたバイクは遠心力を存分に乗せて、まっすぐナンバー2に飛んで行った。
ナンバー2は直前で炎を突き破って飛んできたバイクに気が付いたようだったが、防御する暇もなく胴体にまともにバイクがめり込んでいるのが見えた。
「んなぁ……」
それがナンバー2の残した最後の言葉だった。
ドームの屋根にバイクもろともめり込むと、何かに引火したのか盛大に爆発した。
爆破の衝撃が俺達の身体を叩く。
ちょっとバランスを崩しそうになったが、無事ドクターダイスをキャッチして、俺達はドームの屋に着地を決めた。
「よし! うまくいったな!」
「死んだ……わし、肌が小麦色になっとらん? イケジジ化しとったら困るんじゃが?」
「大丈夫だ。ただの怪しい爺さんのままだよ。しかし……手間が省けたな。バイクはもったいなかったが」
ドクターダイスのたわごとに付き合いつつ、爆発の後を見るとドームの天井には見事に大穴が開いていた。