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PS ヒーロー始めました。  作者: くずもち
パワードスーツ起動編
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シャリオ=メルトリンデの任務

 見た事もない鎧を着たオークが確認されたのは、ほんの数か月前の事だった。


 そのこと自体、数ある事件の一つとして処理されていたが、ある時、状況は激変した。


 冒険者ギルドからドラゴンの巣がオーク達の襲撃を受けて壊滅したという情報が上がったのだ。


 最初これは一笑された。


 それは当たり前のことで、オークがドラゴンに勝てるわけがないからだ。


 オークは猪と人が混ざったような異形のモンスターで怪力を備え、群れを作る厄介な相手である。だが、天災にも例えられるようなドラゴンと比較してしまうと問題にもならない。


 しかし続々と寄せられる、散ったドラゴンの被害報告。


 ドラゴンの巣に異変が起きていることは間違いなく、原因を究明するために調査に乗り出すことになった。


 そんな部隊の一つがシャリオ率いる騎士隊だった。


 王都の騎士団は魔法を得意とする戦闘集団である。


 灼熱の名を冠する貴族、メルトリンデ家次期頭首。


 彼女、シャリオ=メルトリンデは輝かしく飾るはずだった初陣を台無しにされて苛立っていた。


 そして情けない部下達にもである。


 シャリオを取り囲んでいる部下達の表情は怯えが混じっていて、ますます苛立ちは募った。


「シャリオお嬢様……やはり無理です。先のドラゴン戦で負傷している者も多くいます」


「何を言っているの? 何のための魔法ですか。こういう時こそ治癒の魔法を使える者に頼りなさい。日頃の訓練は飾りですか?」


「……お嬢様。貴女は4大貴族の一角なのです。騎士団といえど貴女のように魔法は扱えません。貴女基準で考えてはなりません」


 更には側近のジャンのセリフに、思わずシャリオは自分のコメカミを叩いていた。


「……だからと言って、使命を蔑ろにすることなどできませんわ」


「しかし……あの強さのドラゴンの巣を破壊したモンスターとなると、あまりにも危険すぎます。ここは一度引き返し、交戦したドラゴンの情報も交えて報告をした方が……」


 執事であり、騎士であるジャンの言う通り、あのドラゴンは強かった。


 見通しの悪い森の中で空からの奇襲は、自分達に相当なダメージを与えたのは間違いない。


 だがシャリオは同時にだからこそ引き返せないとそう強く考えていた。


「馬鹿を言いなさい。我らは実質敗北したのですよ? しかし、幸いそれだけです。死者はいない。負傷も軽傷。このままおめおめと引き返せるわけがありません。わたくし達の任務はドラゴン達の巣の調査です。子供の使いもできないのかと嘲笑われたければ、このまま引き返しなさい」


 シャリオとて部下の士気が上がっていないのはわかっている。


 それでもあのドラゴン以上の脅威が野放しにされているかもしれない現状がよいわけがない。


 道程はとても順調とは言えないが、そんなことは人外の化け物を相手にしていればよくある話でしかないのだ。


 現状、任務が何一つとして達成できていないことにすべては無関係だとシャリオは思っていた。


 きっぱりと言い切ったシャリオにジャンは口を噤み、渋い表情で頭を下げた。


「……了解しました」


「状況は不透明です。少しでもはっきりさせねば。噂になっている例のオークは……なんと名乗っていたかしら?」


「……蒸気王です。お嬢様」


「そうだったわね。その蒸気王とやらは見慣れない鎧を使うと聞きました。ドラゴンを倒したあの白い戦士のことが何かわかるかもしれません」


 ただシャリオがそう呟くと、ジャンの顔色はますます渋くなった。


「お嬢様……しかし白い戦士など我々は誰も見ていません。お嬢様がドラゴンを倒したのではないのですか?」


 馬鹿なことを言うジャンにシャリオは首を横に振った。


「……違うと言ったでしょう? 突如現れた白い戦士が、あっという間にドラゴンを仕留め、風のように去っていったのをわたくしは確かに見ました。貴方達が見ていないのは気を失っていたからでしょう?」


「……そうですが。私はお嬢様ならドラゴンを一人で仕留めても不思議ではないと思いまして。ドラゴンと戦い、興奮のタガが外れ白昼夢を見た可能性は? 」


「あぁ?」


「……失礼しました。お嬢様」


 思わず睨むとジャンは怯んだ。


 ゴリラ並みに体格の良い男が、子ザルのように怯える様は、見ていてなんだか気の毒になる。


 だが白昼夢などと一緒にされては言わせてもらわねば気が済まない。


 シャリオは、譲れないところは譲れないと声を大にする。


「わたくしは白昼夢を見るほどぼんやりしていた覚えはないわ。あれだけ探し回ったのに、全く手掛かりが見つからなかったなんて。貴方達、まさか手を抜いていたのではないでしょうね?」


 じろりとジャンを睨むと、彼は首を横に振った。


「いえ……我々は実際に見たわけではないので、詳しくはどうも」


「だから! 絵まで書いて説明したでしょう!?」


「残念ですが……お嬢様の描いた独創的かつ前衛的すぎる絵では、全くわからなかったものですから……」


「はぁ?」


「失礼しましたお嬢様……人探しというのは存外成功率が低いものです。プロの絵かきが描いたとしても、完璧に探し出すのは難しいと思います」


「……とにかく、もう補給は終わっているのでしょう?」


「はい」


「結構。では先に進まない理由はありません。行くことは決定です。覚悟を決めなさい」


 白い戦士はともかくとして、まだこうして任務が続行可能な以上、引き下がるわけにはいかない。


 シャリオは雑念を振り払い、任務に集中することにした。


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