生き物のいない町
俺はバイクにドクターダイスを括り付け、立ち入った町を見て、まず最初に不気味さを感じていた。
ついこの間まで森だったという話の場所は、地面は完全にアスファルトで舗装され、金属で出来上った高層建築が建ち並ぶ、不可思議な町になり果てている。
ちょっと元の世界を思い起こす部分もあるが、それよりも一段階進んだ印象があった。
「整ってるなぁ。すげぇ。あ、空にパイプの道路が、ロマンだなぁ」
「ヒョッヒョッヒョ! ええじゃろ? 故郷の世界をイメージじゃからな!」
「ああ、そう言うのわかるな。素直にすごい。それに、綺麗すぎる」
そしてこの町をさらに異質に見せているのは、その綺麗さだろう。
ゴミ一つ、塵一つない。
それどころか雑草一つ生えていないのだ。
「まるで生き物がいないみたいだ」
町の中を眺めていると、この違和感はどうしても目についた。
そしてこれこそが、一番最初に感じた不気味さの正体なのだろう。
ドクターダイスは、俺の独り言にこう答えた。
「実際いない。ここは精霊のための町だからのぅ」
「精霊のための町?」
「お前さんも見たじゃろう? あのタイツ着たやつらじゃよ」
ドクターダイスの言う通り、確かに見たいし知っていたが、あれらが生活しているという状況がイメージできなかった。
「あいつらがここで生活してるってことか?」
「生活と言えるほどのもんじゃないがの。好き勝手にうろうろしとる。器を得ることでより意識がはっきりしておる様子での。まぁこれもまた実験の一環ってわけじゃ」
ただの実験でこんな町を作ったのだとしたら豪快だが、この町を作るという行為自体も実験にすぎないのか。
どうもこの爺さんは、好き勝手にやっているようだった。
「へぇ。そんなことがあるのか。その器ってやつは、ロボットみたいなもんなんじゃないのか?」
「いやいや、もっと有機的なもんじゃよ。機械的な部品を使ってない訳じゃないが」
「……まさかあんた、原住民原料に使ったとか言わないよな?」
「なんじゃその猟奇的な発想。そんな効率の悪いことするわけないじゃろ? マッド度数がわしより高いんと違うか?」
「あんたには言われたくなかった!」
「まぁアイディアは一杯詰め込んどるぞ? つまらんじゃろう? こんな世界にやって来たわけじゃし?」
「……その辺は少しわかるかな」
俺は仕方がないのでそう答えた。
まったく。最後に共感できることを付け加えるのはやめてほしい。
ドクターダイスという爺さんは知識欲でやっているのだろうが、俺も欲と言えば欲で動いていることに変わりはない。
俺の言葉が耳に入ったのかきょとんとしていた爺さんは、これまでで一番ニヤリと笑う。
「ほぅ、わかるか? ならば貴様もマッドサイエンティストの才能あるかもしれんよ? いやマジで」
「その才能は嬉しくないなー」
「そうかのー最高じゃと思うんじゃけどー」
意見の相違である。残念でもないが。
さて、では、雑談はこれくらいにして、俺は目的地らしい一番大きな建物を確認して、尋ねた。
「それよりも、ドクター? この町に人間がやってきたらどこにとらわれると思う?」
「そりゃあ、あのドームじゃな。あそこがわしの研究室じゃし」
「よし、じゃあ乗り込むとしよう」
ガンと金属音を響かせて、拳を打ち付けやる気満々の俺にドクターダイスは意外そうに尋ねた。
「なんじゃ。疑わんのか? 罠かもしれんじゃろうに」
確かにここまで素直に情報を渡すのは俺にとって都合がよすぎる気はするが、さして問題もない。
だいたい初対面で敵に追われている時点で騙すも何もない気がする。
「ああ、あんたにしたら追われる相手が変わるだけだろう? それに……どっちだろうと突っ込むしかないんだから関係ない」
「ヒョッヒョッヒョ! それもそうだ! ……じゃがそろそろ、向こうも侵入者に気が付く頃じゃよ?」
「……だろうな。そこら中から山ほど気配を感じてるよ」
道路から筒が無数に飛び出してきたのはその時だ。
俺はバイクのエンジンを回す。
「爺さん、しっかり捕まってろよ?」
「ヒョ! さすがに置いて行ってくれても……いやそれも死ぬな!」
「そういうことだ!」
筒から無数の全身タイツの戦闘員がずらずら出てきて俺の進路をふさいだ。
だがふさいだ道が、ドーム方面に集中したことで、ドクターダイスの言葉にも信憑性が出てくる。
タイヤが高速で回り、煙を吹いた。
「ここからは止まらないぞ!」
俺は赤いマフラーをなびかせて突撃した。